こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
今日の2022年12月26日(月)、JICPAのウェブサイトに、KAM(監査上の主要な検討事項)に関する分析レポートが公表されました。それは、次のものです。
監査基準報告書701研究文書第2号「「監査上の主要な検討事項」の事例分析(2021年4月~2022年3月期)レポート(研究文書)」
ちなみに、この文書に記された日付は2022年12月23日(金)のため、公表まで土日を挟んでいることがわかります。一方、前書文には、「2022年12月15日開催の常務理事会の承認を受けた」とも記載されています。いろいろと、日付の間隔があるのが不思議なところ。
また、JICPAによる今回のレポートは、前回のそれと位置づけが変わっています。前回の「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度(2021年3月期)事例分析レポート」は監査研究者への「委託研究」であったため、その注意喚起が目立っていました。それが今回、そうした記載がありません。ここから、JICPA単独で調査・分析したものに変わったものと推察されます。
それはさておき。このレポートは、KAMの強制適用2年目となる2022年3月期を主とした分析が行われています。これよりも先立って、2022年10月21日に、株式会社プロネクサスさんで収録したセミナー「企業の開示に活かす KAM実務対応」において、2022年3月期のKAMの分析を披露しています。
そこで、両者を比較しながら、JICPAの今回のレポートを紹介していきます。
定量分析
JICPAの今回のレポートの内容は、2つのパートから構成されています。ひとつが、KAMの個数・文字数に係る定量分析、もうひとつが、個別トピックに係る定性分析です。
(1)母集団
定量分析については、JICPAが母集団としているのは、2022年6月末までにEDINETに提出された、2021年4月期から2022年3月期までの監査報告書に係るKAM(原則として連結・上場会社に限定)です。そのため、網羅的な分析が行われています。
一方、ボクのセミナーでの定量分析は、TOPIX100銘柄のうち2022年3月期の81社を母集団としています。これは、ボクの分析が、KAMのみならず、企業の開示も含めて検討しているため、負荷が大きいためです。ただし、この母集団であっても、大概の論点がカバーできます。また、個別の論点については、81社に限定することなく、幅広く分析対象としています。
(2)分析内容
JICPAの今回のレポートでは、次の定量分析が行われています。
- 業種別傾向の分析:個数
- 業種別傾向の分析:文字数
- 企業規模別傾向の分析
- 会計基準別傾向の分析
- 監査法人規模別傾向の分析
このように、母集団の網羅性を活かした全体感が得られる分析となっています。
一方、ボクのセミナーでは、限定的な範囲ではあるものの、KAMの個数(ただし、実質的な数)や文字数を分析しています。また、KAMの個数では個別トピックごとに、また、KAMの文字数では報告順序別や個別トピックごとにも分析を行っています。もちろん、前年同期比較も忘れずに。
さらに、KAMがないと報告された事例や、会社法監査におけるKAMの任意記載、「監査人による手続の結果に関連する記述」「当該事項に関する主要な見解」の記載についても調査しています。
定性分析
(1)取り上げられたトピック
JICPAの今回のレポートでは、次の7つのトピックス(10の事例)が取り上げられています。
- 早期適用会社のKAMに係る分析
- 収益認識関連の分析
- IT関連の分析
- 不正関連の分析
- 継続企業の前提に関する分析
- 気候変動関連の分析
- 同一業種内での同一論点(工事進行基準)に係る分析
一方、ボクのセミナーでは、次の10のトピックス(15の事例)を取り上げています。
- 減損(のれん)
- 減損(固定資産)
- 関係会社株式の評価
- 収益認識
- 繰延税金資産の回収可能性
- 公正価値評価
- 貸倒引当金
- 棚卸資産の評価
- ITシステム
- 見積りの仮定
いくつかは、同じ事例がありましたね。やはり、目の付く事例は、どちらの分析でも変わりないことがわかります。
なお、気候変動に関しては、2022年1月に、ボクが会計専門誌『旬刊経理情報』(2022年2月1日号、No.1634)に、「先行する英国企業のKAM事例等から学ぶ 気候変動関連の会計・監査対応」を寄稿してから、目立った事例は登場していません。海外の事例と比較すると、まだまだ日本では大きな扱いになっていないといえます。
(2)経年変化
KAMが強制適用2年目になると、前期のKAMとの比較が避けられません。そこで、経年変化についての説明をどう行っているかに注目が集まります。英国FTSE100銘柄で報告されているKAMでは、前期との違いを任意に記載している事例も珍しくないため、なおさら日本での展開が気になります。
これについては、2022年2月に、ボクが会計専門誌『旬刊経理情報』(2022年2月20日号、No.1636)に、「英国事例から学ぶ 適用2年目以降のKAM対応の留意点」を寄稿しています。そのため、いざ、日本でどのような実務が登場したのかは、大きな関心事。
JICPAの今回のレポートでは、経年変化について、収益認識関連の分析の中で、KAMの本文に前期との比較を記載した事例を紹介するにとどまっています。大きくは取り上げられていません。
一方、ボクのセミナーでは、「KAM報告の経年変化」について、スライド6ページにわたって解説しています。それは、以前のブログ記事「2022年度だからこそのKAMセミナー」でも紹介したとおり。
KAMの分析を行う者としては、この経年変化こそ、強制適用2年目の分析で大きく取り上げて欲しかった論点。JICPAの今回のレポートで扱いが小さかったのが残念です。
残すトピックといえば・・・
KAM強制適用2年目に関する論点のうち、調査・分析していたものの、セミナーで紹介するのを断念した論点があります。JICPAの今回のレポートにも、その論点は触れられていません。
それは、ズバリ、監査人の交代によるKAMへの影響です。監査人が交代したときに、KAMがどう変化したのか、また、どれほど変化していないのかの分析です。実際、前任のKAMをほぼコピペした事例もありますからね。まあ、それは、協会レビューや金融庁検査にお任せするとして。
それも含めて、被監査会社に固有のリスクをいかに識別しているかが、KAMの品質の大きなポイントになりますね。もちろん、財務諸表監査の品質にも関わる問題。それは、企業の財務諸表の信頼性に影響を及ぼしかねません。だから、ボクは、そんな観点でのKAMの分析を続けていきますね。
P.S.
JICPAの今回のレポートの「Ⅳ おわりに」には、総括が示されています。そこでは、誤解を生じさせる可能性のあるKAMや、利用者の理解のための十分性を備えていないKAMとして、6点が挙げられています。これらは、2021年2月に拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説―有価証券報告書の記載を充実させる取り組み―』を発売した当時から指摘していた内容を被りますね。もうすぐ2年が経ちますが、解説している内容は不変です。