TCFD開示で難易度が高いものの一つに、シナリオ分析があります。TCFDによる分析レポートでは、11の推奨開示のうち最も開示率が低いものが「戦略のレジリエンス」です。
一方、先日、ISSBから公表されたS2「気候変動関連」では、これが必須となっています。その第22項において、企業の状況に応じたアプローチを用いて気候へのレジリエンスを評価するために、気候関連のシナリオ分析を利用しなければならないことが要求されているからです。
これについて以前からセミナーなどで指摘しているのは、この開示が財務諸表にまで影響を及ぼしかねない点です。有価証券報告書のサステナビリティ開示において気候変動のシナリオ分析の結果を説明した場合に、財務諸表の利益であったり、注記の説明だったりと、「会計」の世界に波及する可能性があるのです。
そこで、今回の記事では、TCFD開示の「戦略」の箇所で会計への影響に言及する一方で、財務諸表の注記で「気候変動」という見出しを付して説明している事例を紹介します。この会社の監査人も、監査報告書でそれへの対応を報告しているため、合わせて解説していきます。
会計や監査で気候変動の影響を考慮したことを説明する実務は、少なくとも英国FTSE100銘柄の企業にとって標準的な対応です。このような実務は、そう遠くはない時期に日本企業にも及ぶでしょう。今回の記事で、そんな近未来の光景を体験してみませんか。