「なぜ、この重要な事象を注記で済ませるしかないのか?」
財務報告に携わる実務家なら、一度はこう感じたことがあるはずだ。特に、会社法の監査報告書日以後に発生した修正後発事象を、金融商品取引法の財務諸表に反映できないという現実に直面したとき、その違和感は決して軽いものではない。
この矛盾は一時的な運用上の措置ではない。40年以上にわたって制度の中に温存されてきた、構造的な特例処理だ。2025年7月8日、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した企業会計基準公開草案第87号「後発事象に関する会計基準(案)」等は、その是正の契機となり得るものである。しかし、同草案は現行実務の延命にとどまり、根本的な矛盾を解消するには至っていない。
■二重制度と「特例措置」の成立
日本の財務報告制度は、会社法と金融商品取引法という二つの法制度の下に構築されている。これにより、同一年度であっても、会社法の計算書類と金商法の財務諸表が異なる数値を報告する可能性が生じる。とりわけ、会社法に基づく監査報告書日以後に修正後発事象が発生した場合、その情報を金商法の財務諸表に反映させると、法制度間で齟齬が生じる。
この「単一性の破壊」を回避するために導入されたのが、修正後発事象をあえて「開示後発事象」として処理する特例措置である。この措置により、企業は本来財務諸表を修正すべき重要な後発事象であっても、注記にとどめることを強いられる。
■実務の安定と専門職の葛藤
確かに、現行の特例措置は業務の安定化に役立つ。特に、監査報告書日を過ぎれば修正の検討から解放されるため、作業の確定性が担保される。一部の現場担当者にとっては歓迎される運用かもしれない。
だが一方で、経理責任者、経営企画、IR部門、開示担当役員、そして経営者や監査役員にとってはどうか。彼らの責務は、単に処理を完了させることではない。投資家に対する説明責任の遂行であり、また、信頼性ある財務報告の維持である。制度上の「特例」によって、本来なすべき処理を放棄せざるを得ない現実は、説明責任の空洞化に他ならない。
■沈黙に終止符を打つとき
ASBJが公表した後発事象の会計基準案は、日本で初めて包括的な基準化に取り組んだ試みである。しかし、その内容は現行の特例措置を追認するものであるため、過去40年の問題を先送りにするにすぎない。このままでは、企業は将来にわたって「修正できない財務諸表」という制度的制約の中に閉じ込められたままとなる。
だからこそ、今が転機である。この公開草案に対して、現場からの声を届けることが求められている。重要な修正後発事象を財務諸表に反映できる未来を選ぶためには、「制度がそうなっているから仕方がない」という諦めを越えて、実務家自身が意思表示を行う必要がある。
■決着をつけるための3時間
私は後発事象をテーマに2冊の専門書を執筆してきた立場から、次の内容を網羅する実務者向けセミナーを開催する。
- 現行実務の全体像と制度的背景
- 過去に基準化が頓挫した理由と教訓
- 今回の公開草案の具体的内容と問題点
この3時間で、現行制度の本質と、いかにコメントを提出すべきかが明確になる。反映できなかったという「無念」から、反映すべきだという「意思表示」へ。説明責任を果たすための知識と論拠を、この場で手に入れてほしい。そう、これは後発事象の基準案に対する決起大会だ。
■今こそ、制度の沈黙に終止符を打とう
あなたのアクションが、40年の矛盾を終わらせる第一歩となる。