FSFD

サステナビリティ開示義務化の「適用除外」が招く新たなリスク

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

2025年7月17日、金融審議会の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」が公表した『中間論点整理』は、日本企業のサステナビリティ開示制度に重要な転換点をもたらします。これは、同年3月から継続されてきた審議において、企業の予見可能性確保を目的として現時点での議論状況が整理されたものです。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20250717.html

最も注目すべきは適用企業の範囲ですよ。SSBJ基準の適用が株式時価総額を基準とした段階的導入スケジュールとして次のとおり明示されました。

  • 株式時価総額3兆円以上の企業:2027年3月期
  • 株式時価総額3兆円未満1兆円以上の企業:2028年3月期
  • 株式時価総額1兆円未満5,000億円以上の企業:2029年3月期

ただし、1兆円未満5,000億円以上の企業については、2029年3月期を基本としながらも国内外の動向を踏まえた継続検討が必要とされ、また、年内結論が適当との見解が示されました。さらに重要なのは、株式時価総額5,000億円未満のプライム企業については、基準適用と保証導入を今後の状況を見ながら検討し、かつ、数年後に結論を出すことが適当とされた点です。これが一部報道において「全プライム企業への義務化見送り」として報じられる根拠となったのですね。

こうした発表を受け、時価総額5,000億円未満のプライム企業は開示負担の軽減を歓迎しているかもしれません。しかし、この判断は企業価値評価において重大なリスクを内包していることを看過してはなりません。なぜなら、開示の有無が投資家の企業理解を根本的に左右する構造が既に生まれているからです。

 

気候監査の静かな革命:数字が語らない監査実務の質的転換前のページ

サステナビリティ開示基準、英国が示した制度設計の「大人の知恵」次のページ

関連記事

  1. FSFD

    サイバーセキュリティに関するサステナビリティ開示の留意事項

    無知とは怖いものです。その反対に、いったん知ってしまえば、状況がイメ…

  2. FSFD

    TCFDのファイナル・レポートに触れていないこと

    2023年10月12日、TCFDが最後のステータスレポートを公表しま…

  3. FSFD

    契約証書は必要か? 温室効果ガス開示の要点を徹底解説

    SSBJ基準の最終化に向けて、公開草案の内容からの変更が提案されてい…

  4. FSFD

    GWP値の落とし穴と企業戦略──ISSB修正案が突きつける「比較可能性のジレンマ」

    2025年4月28日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が発…

  5. FSFD

    気候変動の10のリスクと2つの機会を開示した海外事例

    貴社のビジネスに固有のサステナビリティ関連のリスクと機会には、何があ…

  6. FSFD

    移行計画の大量のガイダンスについて全体像をつかむ

    サステナビリティ開示の世界では、報告書を公表するにとどまらず、ウェブ…

  1. FSFD

    サイバーセキュリティを有報のサステナビリティ開示とするなら
  2. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.041 第一生命ホールディングス、あずさ
  3. Accounting

    ジュンク堂書店池袋本店 社会担当( @junkuike_shakai )さんに感…
  4. Accounting

    『リースの数だけ駆け抜けて』第1話「運命のプレゼンテーション」
  5. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.022 AOKIホールディングス、PwCあらた
PAGE TOP