Accounting

後発事象の基準開発の本質を問う──沈黙を破り、未来を形づくるとき

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

 

想像してほしい。

もし、利益の半分以上が吹き飛ぶ修正後発事象が生じたとしたら。

あなたは、それを財務諸表の「数値」に反映すべきだと当然のように思うはずだ。

しかし、現行の監査上の取扱いでは、特定の修正後発事象の場合、それは許されない。会社法の計算書類に対する会計監査人の監査報告書日を過ぎた瞬間に、どれほど重要な影響を与える修正後発事象であっても、金融商品取引法の財務諸表には「注記」しか認められていないのである。

利益が半減しても、「数値」に反映できない。これは、後発事象をめぐる特例措置の奥深くに潜む、40年間誰も直視しなかった“核心”である。

 

この特例措置は、会社法の計算書類と金融商品取引法の財務諸表の「単一性」を維持するために設けられた。だが、日本に後発事象が導入されて以来40年以上、この問題は見直されることなく放置されてきた。

研究者はほとんど存在せず、実務家にとっても「長年続く取扱い」を疑う発想は生まれにくかった。こうして「沈黙の40年」が積み重なった。

しかしその沈黙は、社会の信頼を支える会計を蝕み、致命的なリスクへとつながりつつある。

 

2025年7月、ASBJは企業会計基準公開草案第87号「後発事象に関する会計基準(案)」等を公表した。絶好の転換点であったはずだ。

しかし、修正後発事象の特例措置については「短期的な合意形成が困難」とされ、事実上の先送りとされた。提示されたのは「現状追認」の案である。つまり、利益が半減するような修正後発事象ですら、これからも注記で済ませることを、日本で初めて設定しようとする後発事象の包括的な会計基準に明文化しようとしているのである。

ここで問われているのは、単なる技術論ではない。「注記で十分だと言い切れるのか」という、説明責任の根幹にかかわる問いである。これは、日本の会計の信頼を未来へつなぐか、それとも失わせるかという岐路である。

 

私は、2025年9月4日に発売された会計専門誌『企業会計2025年10月号』に、「後発事象をめぐる基準開発の本質を問う」という記事(全7ページ)を寄稿した。40年の歴史を掘り起こし、特例措置に潜む矛盾に切り込み、実務者の視点から具体的な解決策を提示した。

必要なのは、沈黙を破る勇気である。「説明責任を全うできない特例措置」を問い直し、未来に信頼をつなぐ基準を築くための勇気である。

歴史は「沈黙」で動かない。歴史を変えるのは、声を上げた人々の勇気である。

 

利益の半分以上が吹き飛ぶ修正後発事象を、ただの「注記」で済ませてよいのか。それとも、この沈黙を破り、会計に真の信頼を取り戻す未来を共に築くのか。

選択は、まさにいま、この瞬間の私たちに委ねられている。

コメントの提出期限である2025年9月12日には、まだ間に合う。あなたの声が、未来を決めるのである。

 

サステナビリティ保証の標準化が示す日本企業の戦略的機会前のページ

関連記事

  1. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.005 野村不動産ホールディングス、EY新日本

     文豪ゲーテなら、財務報告の流儀を求めるに違いありません。なぜなら、…

  2. Accounting

    KAM分析で忘れてはモッタイナイ視点

    2023年3月期からの決算では、KAM(監査上の主要な検討事項)の強…

  3. Accounting

    企業価値を守る!最新「見積開示」の秘訣と実務の要点を徹底解説

    企業が行う見積開示は、投資家や利害関係者にとって重要な財務情報を提供…

  4. Accounting

    KAMに相当する事項、リリースされたってよ

    KAMに相当する事項、ってやつが話題になっていますね。KAMとは、「…

  5. Accounting

    KAM強制適用の第1号が、ついに登場

    速報です。なんと、今日の2021年5月28日、KAM(監査上…

  6. Accounting

    2022年度だからこそのKAMセミナー

    こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。…

  1. Accounting

    『不正リスク対応監査』から質問の仕方を学ぶ
  2. FSFD

    サステナビリティ関連のリスク及び機会の3つの識別プロセス
  3. Accounting

    見積り開示会計基準への対応にお困りなら、検討シートを差し上げます
  4. Accounting

    『リースの数だけ駆け抜けて』第15話「誤解の夜」
  5. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.033 三井住友フィナンシャルグループ、あずさ
PAGE TOP