企業は、SSBJによるサステナビリティ開示基準に沿ってさえいれば、説明責任を果たしたと言えるのでしょうか。
この問いは、もはや修辞的な問いかけではありません。2026年1月21日、この問いを突きつける文書が公表されました。サステナビリティ開示実務対応基準公開草案第1号です。
本草案は、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)に基づくSHK制度(温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度)で測定・報告している温室効果ガス(GHG)排出量を用いてSSBJ「気候関連開示基準」(以下「気候基準」)に従う場合の測定と開示について提案するものです。その内容は一見すると実務的な調整にすぎないように映ります。具体的には次のとおりです。
- 温対法を「法域による異なる方法」として位置づける
- スコープ1とスコープ2マーケット基準はSHK制度の基礎排出量を用いる
- ロケーション基準は、SHK活動量×全国平均係数で測定する
- その測定方法は開示で明確化する
しかし、この提案はグローバル・ベースラインの持続可能性そのものに関わる火種を内包しています。特に注目すべきは、ロケーション基準に関する提案です。その理由は、IFRS S2号における例外の成立条件とは異なるロジックが動いているからです。同じ「ロケーション基準」というラベルで開示していながらも、海外投資家が想起する内容とは異なるロジックで生成される。結果として、そのような開示を行った企業側に説明責任が転嫁されかねないリスクがあるのです。たとえ、SSBJの実務対応基準に従っていたとしても、です。
この構造を読み解くには、公開草案の公表に至った審議の経緯を知っておく必要があります。
第60回会合では、温対法とロケーション基準の関係が主として実務調整の問題として扱われました。続く第61回会合では、論点が「温対法はそもそも『法域による異なる方法』に該当し得るのか」という規定解釈の問題へと移行します。そして、公開草案の公表議決が行われた第62回会合では、ISSBとの非公式なディスカッションの結果と、それを踏まえたSSBJの対応が説明されました。ここに、火種があるのです。






