2026年1月、企業会計基準委員会(ASBJ)は、「後発事象に関する会計基準」および「後発事象に関する会計基準の適用指針」を公表しました。
一見すると、従来の実務を踏襲した技術的な改訂のように見えるかもしれません。しかし、この新基準が企業の財務報告に突きつけているのは、より本質的な問いです。
「財務諸表は、いつ、誰の責任で完成したのか」
その問いに対して、日本の会計基準を採用する上場企業は、2027年4月1日以後開始する年度から、この問いに対する明確な答えを、注記という形で開示することが求められます。
後発事象の新会計基準で何が変わるのか――「公表の承認日」の注記が意味するもの
今回の新会計基準における最も重要な変更点は、「財務諸表の公表の承認日」を注記として開示することが求められた点です。
この注記は、単なる日付の記録ではありません。それは、どの時点までの後発事象が財務諸表に反映されているのか、その判断に誰が責任を負っているのかを外部に示すものです。
これまで後発事象は、主として監査実務の枠組みの中で処理される事項と位置づけられてきました。自社の判断と責任において後発事象を識別・評価し、その結果を財務諸表に反映するという構造が、日本の会計基準を採用する企業において必ずしも明示的に制度化されていたわけではありません。
今回の基準はその構造を根本から変えます。後発事象は今後、監査対応の付随的な作業ではなく、企業自身が担う財務報告責任の中核的な構成要素として、正式な会計基準の体系に位置づけられることになるのです。
適用初年度が問う、プロセスの「見えない前提」
この制度転換により、適用初年度において、上場企業は自社の財務報告プロセスについて明示的な整理を求められることになります。企業は否応なく、自社の財務報告プロセスを根本から問い直すことを迫られます。特に、次のような論点が実務上の検討対象となります。
- 「公表の承認日」をいつ、誰が承認した日と定義するか。
- それは取締役会決議日をもって承認日とすべきか。
- 代表取締役やCFOによる承認をもってそれに代えることは可能か。
- 監査報告日と承認日の関係をどのように整理すべきか。
- 後発事象の検討期間はいつまで確保されるべきか。
- 修正後発事象の特例的取扱いと承認日注記をどのように整合させるべきか。
これらは、財務諸表の内容そのものではなく、財務報告の責任構造および承認プロセスに関わる問題です。しかし、日本の会計基準を採用する多くの上場企業において、これらの事項はこれまで明示的に整理されてきませんでした。
IFRS適用企業の開示事例は、そのまま参考にできるのか
IFRS会計基準を採用する日本の上場企業の開示事例を参照すると、「公表の承認日」の設定および開示方法には複数の実務が見られます。
しかし、開示事例の形式のみを参照することでは、自社の実務対応を一貫した形で整理することはできません。
重要なのは、なぜその承認日が採用されているのか、どのような財務報告プロセスを前提としているのかという制度的背景です。したがって、開示事例の形式を模倣するのではなく、自社の財務報告プロセスおよび承認構造を踏まえて整理することが不可欠となります。
基準の文言だけでは理解できない「制度構造」
今回の基準は、修正後発事象と開示後発事象という基本構造を維持していることから、形式的には従来の取扱いを踏襲しています。
しかし、その本質は、「財務諸表がいつ、誰の責任で完成したのか」という責任構造を明確にすることにあります。この点は、基準の文言のみから機械的に導かれるものではありません。
基準は、企業内に財務報告の承認プロセスとその責任構造が存在することを前提として設計されています。換言すれば、承認日をめぐる実務判断は、基準の文言から機械的に導かれるのではなく、企業自身の制度的な背景と組織的な意思決定構造を踏まえてはじめて一貫した形で整理できる性質のものです。
したがって、後発事象の評価、財務諸表の承認、注記の作成は、個別に検討されるべき独立した問題ではなく、財務報告プロセス全体の構造として統合的に整理される必要があります。
後発事象の新会計基準に対応するための実務対応セミナー
このような制度転換のもとでは、後発事象を財務報告プロセス全体の構造として整理することが不可欠となります。そのため、後発事象の新会計基準への実務対応を体系的に解説するセミナーを開催します。
本セミナーでは、次の内容を取り扱うことを予定しています。
- 基準が前提としている制度構造
- 「公表の承認日」の実務上の位置づけ
- 後発事象の判定および注記の実務対応
- 適用初年度に向けて整理すべき事項
本セミナーを通じて、自社の財務報告プロセスにおける承認構造および注記方針を、実務上の判断として整理するための基準を得ることができます。
セミナーの講師
講師を務める私、竹村純也は、後発事象の会計基準について、基準開発の議論が始まった段階から、その動向を継続的に分析してきました。特に、「公表の承認日」を含む今回の基準の構造については、その制度的背景を含めて分析を行っています。
後発事象に関する書籍の執筆、専門誌への寄稿、ASBJ公開草案へのコメント提出、ならびに後発事象のみをテーマとした専門セミナーの開催を通じて、この領域の制度および実務の変遷を整理してきました。
これらの活動を通じて、基準の条文のみからは把握しにくい制度的背景と、実務において判断が求められる論点について分析を行っています。
後発事象の新基準は「責任構造の開示」を求めている
後発事象の新会計基準は、単なる注記項目の追加ではありません。それは、企業に対して、財務報告の責任構造を明確にすることを求めています。
後発事象の新会計基準への対応に向けて、自社の財務報告プロセスおよび承認構造の整理を検討されているなら、セミナーの詳細をご確認ください。









