サステナビリティを巡る制度整備が急速に進む中、企業実務では「サステナビリティ対応」という言葉が広く使われるようになりました。しかし、その内実を丁寧に見ていくと、この言葉が指す対象は決して一様ではないことに気づかされます。
それは、サステナビリティ関連の取組みそのものを充実させることを意味するのか。それとも、サステナビリティ開示基準に基づいて開示体制を整えることを意味するのか。実務の現場では、この二つがしばしば同一のものとして語られることがあります。
象徴的なのが、SSBJ基準への対応を進めた企業が「サステナビリティ対応が進んでいる企業」として評価される一方、サステナビリティに実質的に力を注いでいる企業が、必ずしもそうした評価を得られるとは限らないという逆説です。
では、企業のサステナビリティ対応は、本来何によって評価されるべきなのでしょうか。本稿では、2026年7月21日公表された「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)」と「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」を手がかりに、この問いを掘り下げていきます。
コードが取締役会に本当に求めているもの
コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)は、サステナビリティを巡る課題について、取締役会に積極的かつ能動的な関与を求めています。
原則4-5は、取締役会が中長期的な企業価値向上の観点からサステナビリティ課題への基本方針を策定し、かつ適切に対応することを要請します。解釈指針はさらに、気候変動、人権、従業員の健康・労働環境、多様性、自然災害への危機管理などを例示しながら、これらをリスク低減の対象としてだけでなく、収益機会にも直結する重要な経営課題として位置付けています。
ここで見落としてはならないのは、コードが個別の施策や組織体制を一律に指定しているわけではないという点です。サステナビリティ課題の内実は業種、ビジネスモデル、経営環境によって大きく異なります。そのためコードは、具体的な対応方法を細かく規定するのではなく、各社が自ら重要課題を識別し、それを経営にどう反映させ、取締役会がどのように監督するかという判断そのものを企業に委ねています。
この姿勢は、コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)において打ち出された「プリンシプル化」と「スリム化」という方向性とも符合します。コードが重視しているのは、形式的な対応ではなく、原則の趣旨を踏まえた実質的な取組みです。
つまり、原則4-5が問うているのは、サステナビリティについて何を開示したかではなく、その前提として、企業がサステナビリティ課題をいかなる経営課題として認識しているか、また、取締役会がどのような役割を果たしているかという点です。
コーポレートガバナンス・コードとSSBJ基準——似て非なる二つの制度
コーポレートガバナンス・コードが取締役会の主体的な役割を求めていることを確認したうえで、次に問うべきは、この規律とSSBJ基準の関係です。
SSBJ基準は、有価証券報告書において、投資家等の意思決定に有用なサステナビリティ関連財務情報を開示するための基準です。一定の適用対象企業にとっては金融商品取引法に基づく法定開示の枠組みの中に位置付けられます。
両者はいずれもサステナビリティを扱う制度である点で共通するものの、規律する対象は明確に異なります。コーポレートガバナンス・コードは、企業がどのような考え方でサステナビリティ課題に取り組み、取締役会がいかなる役割を担うべきかというガバナンス上の原則を示すものです。その実施状況は主にコーポレート・ガバナンス報告書で説明されます。これに対しSSBJ基準は、企業が識別したサステナビリティ関連のリスクと機会について、投資家等の意思決定に必要な情報を有価証券報告書でどう開示するかを定めるものです。すなわち、制度上の目的も対象も開示媒体も、両者は本来別のものなのです。







