不正リスクを監査報告書でどう語るのか――ISA 240改訂をめぐる論争
シリーズ特別編/JICPA公開草案をめぐる情報発信
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2026年9月18日、JICPAのウェブサイトに、監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」の改正公開草案を説明する動画が掲載された。以下、この基準を「監基報240」と呼ぶ。
15分ほどの動画で、タイトルは「監査基準報告書240『財務諸表監査における不正』の改正(公開草案)の概要説明動画」。JICPAは、「公開草案のポイントをまとめて解説」するものとして案内している。
日付を少し遡ると、公開草案が公表されたのは8月10日だった。意見募集期限は、その1か月後の9月10日と明記されていた。公開草案本文とともに、「改正(公開草案)の概要」と題する参考資料も公表されている。
つまり、8月10日に公開草案と概要資料が出て、9月10日に意見募集が終わり、その8日後の9月18日に概要説明動画が出た。
この動画を見ながら、少し疑問に思う。なぜ、このタイミングなのだろう。
もっとも、動画を見るまで改正の概要が分からなかったわけではない。JICPAは8月10日の時点で、今回の改正では現行の監基報240から大幅な項目の追加や削除が行われているため新旧対照表を作成せず、その代わりに概要資料を参照するよう案内していた。
実際、動画もこの概要資料に沿って進んでいく。不正又は不正の疑いを識別した場合の対応、不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価、そのリスクへの対応、経営者や監査役等とのコミュニケーション、不正に関連するKAM、職業的懐疑心、そして我が国固有の対応。大きな流れは、8月10日から公表されていた概要資料と変わらない。
もちろん、文章をそのまま読み上げているだけではない。収益認識を不正リスクとして識別しない場合には「本当に不正リスクに該当しないか」の検討が求められるとの説明や、不正に関連するKAMについて「今後の監査実務」で記載の要否や内容の検討がより重要になるとの見方など、口頭ならではの補足も加えられている。
それでも、9月18日に初めて明らかになった重要な改正内容があったわけではない。新しい基準情報を急いで伝えるために、この日に動画を出したという感じでもない。
そうなると、気になるのは動画の中身より、やはりその日付である。
しかも、この説明は以前からできていた
9月18日という日付をもう少し追ってみると、気になることがもう一つ出てくる。
監基報240の改正内容を説明する材料は、8月10日の公開草案公表時に初めてできたものではない。
7月1日には、第73回監査・保証基準委員会有識者懇談会が開かれていた。JICPAが後に公表した会議資料を見ると、そこではすでに監基報240の改正概要が説明されており、9月18日の動画につながる主要な内容の骨格が示されていた。JICPAは、この懇談会の議事要旨と会議資料を8月13日に公表している。
つまり、「動画で何を説明するのか」が9月になってようやく決まった、というわけではない。そのうえで、9月18日がどのような時点だったのかを考えてみる。
公開草案は、確定した基準ではない。JICPA自身、8月10日の公表時に、一定の検討を終えたため公開草案として公表し、「広く意見を求めることにした」と説明している。意見募集期限は9月10日だった。公開草案なのだから、寄せられた意見を検討した結果、必要があれば修正してから最終化することになる。
9月10日を過ぎれば、今回の意見募集に新たなコメントを提出することはできない。しかし、9月18日の時点では、監基報240の改正はまだ最終化されてもいなかった。
意見募集は終わっている。けれども、説明の対象はまだ確定していない。しかも、動画で語られた内容の骨格は、7月にはすでにできていた。
そう考えると、「なぜこの日なのだろう」という違和感の輪郭が、少しずつはっきりしてくる。
説明する材料がなかったわけではない。かといって、確定した内容を説明できる段階でもない。その間に、9月18日はあった。
いつなら腑に落ちるのか
動画がいつ出ていたら、この日付はそれほど気にならなかったのだろう。
まず、意見募集期間中である。公開草案の説明動画を見て、改正の全体像をつかむ。そこで気になるところがあれば本文を確認する。それでも疑問が残れば、意見として提出する。公開草案について「広く意見を求める」のであれば、ごく自然な流れである。
もう一つは、最終化した後だ。その時点なら、「これが確定した基準です」と説明できる。実務家の側も、その内容を前提として、監査手続をどう変えるのか、経営者や監査役等と何を話すのか、KAMをどう考えるのか、と具体的な準備に進める。
意見募集期間中なら、理解がコメントにつながる。最終化後なら、理解が実務につながる。どちらも分かりやすい。
では、その間はどうだろう。
公開草案を説明するなら、意見を求めている間なのか。確定した後なのか。なぜ、そのどちらでもない時点だったのか。
もちろん、早く周知したい事情や、動画制作の日程上の都合があったのかもしれない。外からは分からない。ただ、そうした可能性を考えてみても、9月18日という日付がすっと腑に落ちる説明は、今のところ見つからない。
動画が問題なのではない
公開草案を動画で説明すること自体には、むしろ意味がある。
監査基準の公開草案は、気軽に読み通せる文章ではない。今回の監基報240のように改正範囲が広ければ、まず動画で全体像をつかみ、必要なところを本文で確かめるという読み方もできる。文章とは別の入口が用意されることは、実務家にとってありがたい。
だから、動画はあった方がよい。気になるのは、何を説明したかではなく、それをいつ届けたかである。
JICPAは、公開草案について「広く意見を求める」としている。そうであれば、公開草案を分かりやすく説明することと、意見を求めることとは、本来どこかでつながっているはずだ。説明を聞いたからこそ気づく疑問もあるし、本文を読み直して初めて意見になることもある。
一方、確定した基準を説明するのであれば、その役割は別にある。実務家に内容を理解してもらい、適用に向けた準備につなげるための説明である。
つまり、動画には価値があるからこそ、その価値を基準設定のどの段階で生かすのかが気になる。
公開草案を分かりやすく説明することと、広く意見を求めることを、JICPAはどのようにつなげているのだろう。そして、実務への周知を目的とするのであれば、どの時点でそれを行うのが最も適切なのだろう。
なぜ、9月18日だったのだろうか。









