企業の決算書でメインとなるのは、2つの書類。ひとつは、期末日現在の資産や負債などをまとめた「貸借対照表」。英語表記の「Balance Sheet」(バランスシート)を略して、「BS」(ビーエス)と呼ばれます。
もうひとつは、収益から費用を差し引くことで一年間の利益を算定する「損益計算書」。英語表記で「Profit and Loss Statement」を略して、「PL」(ピーエル)と呼ばれます。もっとも、これはかなり昔の呼び方。いまでは「Income statement」と表記されるものの、日本では2019年になった今でも「ピーエル」と呼んでいます。
で、会計に不慣れな人は、PLばかりに着目します。確かに、儲かったかどうかが示されているため、わかりやすい。やれ売上高が少ないだ、やれ経費が多いだというところばかりに目が向きます。しかし、それはもう過去の話。どうこうしようがない結果に過ぎない。
一方で、会計に長けた人は、自分がしてきた経営の成果を数字で確かめるためにPLを使います。PLを見てはじめて儲かったかどうかを知るのではなく、経営者が頭の中に描いている儲けが本当にそうだったかを確かめるためにPLを見るのです。
ボクが会計監査を通じて見てきたスゴイ経営者は、みな、このタイプ。「こう経営したら、こういう利益が出るはず」と事前に考えて、考えたとおりに経営を行う。その結果を月次や四半期、年次で「やっぱり、その水準に達したな」とか「あれ、思ったようには行かなかったな」とPLで確かめるのです。
今、思えば、売上高を生み出す要素に着目していたのでしょうね。売上高は、数量に単価を乗じて算定されます。これら2つは、決算書ができる前に把握できます。
単価は業種にもよりますが、定価やあらかじめ決めた販売価格の幅があるはず。大幅に値下げするときには、社内の承認も必要でしょうから、「これくらいの単価」というのは事前にわかるハズ。
一方、数量については、現場でリアルタイムにわかるもの。もっといえば、「こう売っていこう」という戦略や計画のもとでマーケティングやクロージングをかけていくため、ターゲットとしている水準もあらかじめわかっているハズ。
マーケティング的にいうなら、「見込み客」「既存客」「継続客」のそれぞれに、リードの数、コンバージョン率、ライフタイムバリューという要素をモニターしていけば、売上高が予想できます。だから、これらを高める施策を講じることによって、その結果を確かめていけば、どんな売上高となるかが十分に予想できるというワケ。
このように、売上高を算定するための要素の動きが事前に把握できるのです。だから、何も決算書を待つまでもない。もちろん、その経営者がこうした要素を常に理解している必要はあるけれど。
売上高が予想できれば、後は費用。仕入は売上に連動するし、また、経費は固定費と変動費に分ければ、予想もつく。したがって、最終的な利益も決算を待たなくとも見えるものがあるのです。
だから、PLは、スゴイ経営者にとっては、自分がしてきた経営活動の予想を裏付ける資料としての位置づけ。そこに新しい情報は基本的にはない。
新しい情報という意味なら、むしろBSのほうが適しています。PLはそのときどきの情報で構成されているため、その年度がすぎるとリセットされます。TwitterやFacebookの投稿のように、流れていく項目で作られている。だから、フロー情報とも呼ばれます。
それに対して、BSは年度末という一時点の状況が示されています。PLで計上された項目が入金されたのか、支払われたのかが一覧になっています。その顛末を追っていくものなんです。先日のブログ「業務フローを理解するために必要なもの」でお話ししたような、産能式のフローチャートのよう。
こうした性格をもつため、然るべきタイムスパンで顛末を迎えていない項目は、BSに残り続けます。特に資産として計上される売掛金や在庫などは、滞留すると回収や販売が難しくなるのが常。それらが損失となって儲けを減らす。PLだけを見ていては把握できない将来の損失を捉えることができるのです。
なので、スゴイ経営者は、PLは見るものの、BSのほうを重視します。なぜ、在庫が増えているのか、売掛金が増えているのかと。会計のプロの会計士も、PLよりもBSを見る。ボクも決算書はBSから見ていきます。
もし、会社で決算書を見る場面で、PLのことしか話さない人がいたら、こう言ってやってください。「で、BSは見たの。どう思った?」と。ただし、その答えをもっていないと、怪我をしますので、ご注意を。