今日の2020年6月18日、東京都知事選挙が告示されました。少し遡った5月末頃に、この都知事選挙への立候補の可能性が騒がれた本が発売されました。
それは、堀江貴文サンによる『東京改造計画』(幻冬舎)。コロナ時代の新しい首都のカタチとして、37項の提言が記された本です。その提言は、経済、教育・社会保障、新型コロナウイルス対策、都政、未来の生き方の5分野にわたっています。
そのため、堀江貴文サンが都知事選に立候補するんじゃないかと報道されました。もっとも、ご本人は、自身の提言が誰かによって実現されれば良いため、特に立候補する意向はない模様。
この本を読んでいて、ハッとした文章がありました。それは、有価証券報告書の記述情報が充実しない理由にもつながる一文。具体的には、次のとおり。
いつの時代も権力者は既存のルールが変わらないほうが都合がいい。だから政治にはイノベーションが起こらないのだ。
これは、都政にネット選挙を導入することの提言の中での記載。一方で、企業の中での権力者といえば、経営者。そう読み替えたときに、有価証券報告書の記述情報が弱いと指摘されている現状の本質を付いた文章になるのです。
2020年3月期から、有価証券報告書の記述情報を充実させる改正が強制適用となります。これまでよりも経営者の視点を反映した記述が求められるようになる。どこに向かい、どのように事業活動を行い、その結果をどう捉えているのか。財務諸表の数字の動きを文字にするのではなく、経営者の視点から説明するのです。
これは、「経理部門の有価証券報告書」から「経営者の有価証券報告書」へとパラダイムシフトしなければならないほどに、財務報告の大きな変革だとボクは理解しています。そういう意味では、財務報告にイノベーションが必要な局面。
ところが、先の記述に照らせば、経営者がその気にならなければ、イノベーションは起きない。財務報告の充実には、経営者の意識が変わらないといけないのです。
まだ、この改正に対応した有価証券報告書が開示されていないため、全体的な傾向は予測できません。ただ、新型コロナウイルスへの対応という側面ばかりが強調されていると、改正の趣旨に則った記述情報が少なくなることを懸念しています。
もちろん、新型コロナウイルスへの対応も、経営者の視点が反映されるものに違いありません。すでに事業活動にインパクトをもたらしていたり、これからインパクトをもたらすだろうと予想されていたりと、各社各様。
しかし、新型コロナウイルスが事業活動に大きなインパクトをもたらす企業ばかりではありません。影響はあるにせよ、そこまでインパクトが予想されていない企業もあるのが事実。にもかかわらず、新型コロナウイルスへの対応を記載することで、記述情報を充実させる改正に対応したと捉えられてしまうと、趣旨と違う。
こうした企業では、新型コロナウイルス以外についても、経営者の視点を反映した記述情報が求められているのです。この点を看過したり、軽視したりしてはいけない。企業の財務報告に対する姿勢が問われています。
ちなみに、記述情報を充実させるためのひとつの方策として、ディスクロージャー委員会の設置が考えられます。ボクの最新刊『ダイアローグ・ディスクロージャー KAMを利用して「経営者の有価証券報告書」へとシフトする』(同文舘出版)では、それについて解説しています。
しかも、イメージしやすいように、7つのシーンによる会話を収録しています。登場人物のひとりである「広末係長」がキュートなんですよ。また、広末係長のイラストも、とても素敵に描かれています。大手書店に並んでいるため、ぜひとも、その目で確かめてください。