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ISSB産業別ガイダンスが仕掛ける「選択という名の義務」

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

2025年7月、IFRS財団が公表した「ISSB産業別ガイダンス」の使用に関する教育的資料は、一見すると技術的な指針に過ぎないように見えますね。

  • IFRS Foundation publishes educational material about using ISSB Industry-based Guidance when applying ISSB Standards(仮邦題:IFRS財団は、ISSB基準を適用する際のISSB産業別ガイダンスの使用に関する教育的資料を公表しました)

https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2025/07/educational-material-issb-industry-based-guidance

しかし、その構造を精査すると、企業の開示判断に対する極めて巧妙な制度設計の全貌が浮かび上がってきます。形式的には選択の自由を残しながら、実質的には特定の開示行動を強力に誘導する仕組みが、まるでトロイの木馬のように組み込まれているのです。

この教育的資料における「ISSB産業別ガイダンス」とは、具体的にはSASBスタンダードと「IFRS S2の実施に関する産業別ガイダンス」を指しています。これらは、企業の産業特性に応じた開示トピックと指標を提供する、いわばサステナビリティ開示のロードマップといえるでしょう。ISSB基準では、これらのガイダンスを「shall consider」(考慮しなければならない)と規定するにとどまり、形式上は他のガイダンス利用を排除していません。ところが、教育的資料が提示する判断構造を読み解けば、ISSBが企業による実質的なガイダンス適用を強く期待していることは火を見るより明らかなのです。

 

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