サステナビリティ開示における真の価値は、洗練された指標や表現技法にあるのではなく、その背景で展開される戦略的行動の質によって決定されます。どれほど体系的な報告書を作成しても、実体を伴わない情報は投資家・規制当局・地域社会との信頼関係を損ないかねません。質の高い開示を実現するためには、企業が実行する戦略や行動計画の深層理解が前提となるのです。
本稿では、欧州企業の現地視察を基にまとめられた『いまこそ、本物のサステナビリティ経営の話をしよう』(講談社、2025年7月刊)に紹介されたハイネケン社(Heineken N.V.)の事例を通じて、戦略と開示の統合的アプローチを検証します。同社を選定した理由は明快です。2024年12月期にESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に準拠した開示を行っているからです。
同社が掲げる2040年ネットゼロ目標において、「水資源の持続可能な利用」は最優先課題に位置付けられています。その戦略の特徴は、自社工場の効率化にとどまらず、原料生産を担う上流農業分野への積極的介入にあります。まさに「水なくして、ビールなし」という現実を正面から受け止めた、バリューチェーン全体を貫く包括的アプローチといえます。