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Scope 3保証という設計問題――「3年目見直し」を合理的保証への自動接続にしてはならない理由

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気候関連情報の開示が義務化の工程表に組み込まれました。「何を開示するか」という問いは一定の決着を見つつあります。その結果、「何をどの水準で保証するか」という問いが避けられない焦点として浮上してきました。

2026年4月24日に開催された企業会計審議会総会では、サステナビリティ情報保証部会の設置と国際基準との整合が議題に上っています。時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業については、2027年3月期からSSBJ基準に基づくサステナビリティ情報開示を開始されます。翌2028年3月期から保証を導入する案も示されています。制度の時計は、着実に刻まれています。

もっとも、制度が前進するほど、一つの危うい思い込みが強化されている可能性があります。それは、「重要な情報には高い保証水準を」という等式です。

この等式は、直観的には正しく見えます。もっとも、保証とは情報の重要性に応じて自動的に強化されるものではありません。高い保証水準が有効に機能するためには、対象情報の性質、証拠の入手可能性、算定プロセスの成熟度という三条件が必要となります。Scope 3排出量については、少なくとも全体として、この三条件が一律に充足されているとは言い難いものがあります。

本稿が主張するのは、この一点に尽きます。Scope 3を開示することと、Scope 3を合理的保証へ自動的に接続することは、分けて考えなければなりません。開示の義務化と保証水準の高度化を同一の文脈で語り続ける限り、日本のサステナビリティ開示制度は「見栄えのよい制度疲弊」へと向かう危険があります。

 

企業会計審議会総会で公認会計士の金子裕子委員が発した問題提起は、簡潔ながら核心を突いています。具体的には、「サステナビリティ情報は、財務情報の精緻さとはかなり異なる部分がありますので、合理的保証が可能なのか、あるいはScope3の保証が実効性あるものとなるのかということについては、慎重に判断すべきと考えます」と述べたのです。

この発言は、保証制度への抵抗ではありません。制度を実のあるものにするための、内側からの警告です。

この論点に関連して、ソニー銀行(株)代表取締役副社長である松岡直美委員も懸念を示しました。それは、保証業務実務者から「大量の証跡提出を求められる可能性」です。その水準や運用にばらつきが生じた場合、企業実務に過剰な負担をもたらしかねません。これは、実際に保証対応を進める企業が直面する極めて具体的なリスクです。

ここで問われているのは、保証水準の引き上げ競争ではなく、保証水準と情報の性質の適合性です。対象情報の性質に合わない保証水準は、信頼を高めません。むしろ、企業にも保証業務実施者にも過剰な防衛行動を生みます。その結果、開示の本来の有用性が損なわれるのです。

制度として見栄えのよい「合理的保証」という看板を掲げても、企業が膨大な証跡集めに追われるだけであれば、制度の成功とはいえません。保証業務実施者が防衛的な手続を積み上げるだけであれば、それは制度の疲弊です。

 

合理的保証と限定的保証の違いは、単なる「保証の強弱」で片付けられません。両者では、結論の表明形式が異なります。必要な証拠の水準も異なります。保証業務実施者に求められる手続の質と量も根本的に異なります。

限定的保証は「重要な虚偽表示があると信じさせる事項は認められなかった」という消極的な形で結論を表明します。一方、合理的保証は「対象情報が規準に準拠している」という積極的な意見表明を行います。後者が有効に機能するためには、証拠が十分かつ検証可能な形で存在していなければなりません。

財務情報の場合、その条件は比較的整いやすいでしょう。取引記録、契約書、請求書、入出金記録、会計帳簿、内部統制、外部確認といった証拠体系は、企業の内部で生成・保持されるからです。保証業務実施者は、それらに体系的にアクセスできます。もちろん、財務諸表監査にも見積りや判断は含まれます。しかし、検証可能な証拠の連鎖を構築する基盤があります。

これに対してScope 3は、その構造が根本的に異なります。対象となる活動は15カテゴリに及びます。具体的には、購買した製品・サービス、資本財、燃料・エネルギー関連活動、輸送、廃棄、出張、通勤、販売した製品の使用段階、販売した製品の廃棄段階、リース資産、フランチャイズ、投資などです。そこでは、実測値と見積値が不可分に混在します。一次データと二次データも混在します。サプライヤーから入手した情報、産業平均値、排出係数、モデル推計も同じ算定体系の中に入り込みます。企業の統制下にある情報と、企業の統制を越えた外部情報が絡み合うのです。その結果、どこまでが「検証可能な証拠」であるのかの境界自体が曖昧です。

重要なのは、Scope 3の15カテゴリが一様ではないという点です。ある企業にとって、出張や通勤に関するデータは比較的整備しやすいかもしれません。これに対して、販売した製品の使用段階における排出量が事業インパクトの大半を占める企業では、当該カテゴリに高い不確実性が集中します。この場合、当該カテゴリを合理的保証の対象とすることの意味が根本的に問われます。

ここでの問題は、「Scope 3は合理的保証に値しない」ということではなく、Scope 3全体を一律に合理的保証へ移行させる発想そのものの粗さです。カテゴリ別の重要性、データの成熟度、証拠の入手可能性を考慮しないまま、「Scope 3は合理的保証」という図式が定着することを、慎重論は警戒しています。

利用者は「合理的保証」という言葉を聞けば、相当程度に厳格な検証がなされた情報と受け止めます。しかしながら、Scope 3の多くの領域では、証拠の入手可能性、データ品質、算定仮定、外部依存性に構造的な限界があるのも事実です。この限界を明示しないまま保証水準だけを引き上げた場合、保証というラベルが情報の実態を覆い隠す危険があります。紙の山を積み上げても、信頼の山ができるとは限らないのです。

 

日本がこの問題を考える際、海外動向は重要な参照軸となります。ただし、その読み方には精度が必要です。海外の動向を「気候開示の有用性への疑問」と読むのは誤りです。正確には、「保証設計の現実化」と読むべきです。

 

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