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サステナビリティ保証は何を信頼可能にするのか――「数値の保証」の先にある設計思想

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日本では、SSBJ基準に基づくサステナビリティ関連財務情報への保証制度の導入に向けた議論が本格化しています。2026年7月3日の企業会計審議会サステナビリティ情報保証部会の事務局説明資料においても、保証範囲をどこまでとするか、保証水準をどのように位置付けるかといった制度設計が主要な論点として取り上げられています。これらが実務上きわめて重要な論点であることはいうまでもありません。

もっとも、その前提として、なお検討すべき問いがあります。それは、サステナビリティ保証とはそもそも何を保証する制度なのか、という問いです。保証対象は、温室効果ガス排出量なのでしょうか。ガバナンスやリスク管理なのでしょうか。あるいは、それらを含むサステナビリティ関連財務情報全体なのでしょうか。

この問いは、一見すると単純ですが、制度全体の設計思想に関わります。ISSB及びSSBJ基準が投資家に提供しようとしているのは、温室効果ガス排出量という数値そのものではありません。投資家が必要としているのは、その排出量が企業のリスクや機会にどのように関係し、それが戦略や資本配分にどのように反映され、最終的に企業価値へどのような影響を及ぼし得るのかという一連の説明です。

そうであるならば、保証制度についても、同じ視点から問い直す必要があります。サステナビリティ保証は、個々の開示情報の正確性を保証する制度として理解すべきなのでしょうか。それとも、企業価値に関する説明全体の信頼性を支える制度として理解すべきなのでしょうか。

なお、本稿は、企業価値そのものや経営判断の正しさを保証すべきだと主張するものではありません。また、温室効果ガス排出量に対する保証の意義を否定するものでもありません。本稿が試みるのは、ISSB及びSSBJ基準が企業価値への影響の説明を目的としているのであれば、それを支える保証制度は何を、どのような考え方で信頼可能なものにしようとしているのかを、制度形成の出発点として明らかにすることです。

 

この問いに答えるためには、まず、ISSB及びSSBJ基準が投資家にどのような情報を提供しようとしているのかを確認する必要があります。

両基準は、温室効果ガス排出量や水使用量といったサステナビリティ情報そのものの開示を目的とする基準ではありません。両基準が投資家に提供しようとしているのは、サステナビリティ関連のリスク及び機会が、企業の将来キャッシュ・フロー、ファイナンスへのアクセス又は資本コストにどのような影響を及ぼすと合理的に見込み得るかについての情報です。したがって企業には、個々の指標を並べるだけではなく、それらを自社の経営と結び付けて説明することが求められます。

例えば、温室効果ガス排出量の開示は、その数値自体を示すことにとどまるものではありません。排出量の水準や削減状況が、規制リスク、移行リスク、設備投資、事業ポートフォリオ、競争力、さらには財務的影響とどのように関係するのかを理解するための情報として位置付けられます。排出量という一つの数値は、企業がどのようなリスク又は機会を認識し、その認識を踏まえてどのような戦略を採用し、その戦略に沿ってどのような資本配分を行い、その結果として企業価値にどのような影響を想定しているのかという一連の説明の中に置かれて、初めて投資家にとって意味を持ちます。

この意味で、両基準が企業に求めているのは、「点」としての情報ではなく、「線」としての説明です。すなわち、ISSB及びSSBJ基準が構築しようとしているのは、個々の開示項目を積み上げた情報の集合ではなく、サステナビリティ事項が企業価値に及ぼす影響を、一貫したストーリーとして投資家に伝えるための情報体系であるといえます。

もっとも、ここで重要なのは、そのストーリーの結論が正しいかどうかではありません。将来の企業価値は、経済環境、技術革新、規制の変更、市場参加者の評価など、多くの要因によって変化します。そのため、その帰結をあらかじめ保証することはできません。しかし、企業が開示した情報が、サステナビリティ事項と企業価値との関係を、適用される規準に従って説明しているかどうかは、これとは別に検討されるべき問題です。基準が企業価値への影響を説明するための情報体系であるならば、その体系の信頼性を支える保証制度もまた、この設計思想から切り離して考えることはできません。

 

では、その情報体系に対する保証とは、企業価値そのものを保証することを意味するのでしょうか。

この点については、明確に否定しておく必要があります。保証業務実施者が保証するのは、企業価値そのものではありません。また、経営者の判断の正しさ、将来キャッシュ・フローの実現可能性、あるいは戦略の成功可能性を保証するものでもありません。

ここで重要となるのは、「保証対象」と「保証目的」は必ずしも一致しないという視点です。例えば、温室効果ガス排出量という数値は保証対象となり得ます。しかし、その数値を保証する目的は、単に数値の正確性を確認することに尽きるものではありません。投資家がその数値を用いて、企業のリスク、戦略及び財務的影響を適切に理解できるようにすることにも意義があります。すなわち、保証対象が個々の開示情報であっても、その保証が支えようとしているものは、個々の情報を超えた広がりを持ち得ます。

この区別を踏まえると、保証制度を理解するうえで重要な分岐点が見えてきます。保証業務実施者は、開示された情報そのものを保証しているのか。それとも、その情報によって構成される企業価値への説明の信頼性を支えているのか。

両者は一見同じことを述べているように見えますが、制度設計上の含意は異なります。前者であれば、保証制度の関心は、個々の開示情報の正確性に収斂します。これに対し、後者であれば、保証制度は、個々の開示情報が企業価値への説明としてどのように結び付いているのかという視点を持たざるを得ません。この分岐は、保証範囲をどこまで広げるかという制度論だけでは捉え切れず、制度の設計思想そのものに関わる問題です。

購読者限定|この先で扱う内容
個々の開示情報に対する保証は、企業価値への説明の信頼性とどのように関係するのか。ISSA 5000の考え方と具体例を手掛かりに検討し、日本の保証制度設計への示唆を探ります。
・ISSA 5000が求める、開示の背景にある企業の判断過程への着目
・個々の情報の正確性と、企業価値への説明の整合性との関係
・保証制度の役割と限界を踏まえた、日本の制度設計への示唆

 

その一文が見つかるまで ―監査基準報告書560「後発事象」の改正案前のページ

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