今日の午前中のこと。事務所の後輩クンが腕組みをしながら、しかめっ面で考え込んでいました。
「どしたの?」と声をかけると、ある状況における会計処理について悩んでいるとのこと。複雑なことをしているものの、どうもスッキリとしない。どこかがおかしいと感じていても、何が変なのかがわからないという。
その状況と会計処理を聞いて、「それ、前提が違うんじゃない」と返答。会計処理が想定している状況と異なっているにもかかわらず、会計処理を無理くり当てはめようとしていたのです。
ボクの経験上、会計処理が腑に落ちない場合、その前提が違っていることが多い。Aという状況を想定した会計処理なのに、Bという状況でも同じように適用しようとすると、変なことになるのは当たり前。
会計処理とは、経済行為を映す鏡のようなもの。その取引がAという状況であることを想定しているからこそ、それに応じた会計処理が定められている。しかし、Bという状況になってしまうと、経済行為の実態を映すことができない。
こういう状況に陥ったために、会計処理に悩むのです。それは後輩クンだけでなく、企業の経理の方も同じ。もちろん、あるべき会計処理は承知していますし、また、どういう状況を想定して設定されているものかも理解しています。
しかし、経営層や現場の方からは、やれ、こうしろ、ああしろ、とオーダーが来ると、それに応えようと努めます。そのこと自体は何も悪くありません。経済行為を映す鏡である会計処理が、経済行為のほうを歪めるのは順番が違うからです。
ただ、会計処理が想定している前提まで変わってしまっていると話は別。会計基準の設定時に今後生じるすべての事象を想定することは無理。自ずと想定しきれること、対応できることでフレームが決まっていきます。だから、ちょうど今、ASBJサンでは「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」を検討しているところ。
そういう定めが明らかでない場合を除けば、ボクの経験上、会計処理に悩む局面の多くは、やろうとしている経済行為、あるいは、やってしまった経済行為そのものに正当性や合理性がないケース。会計処理だったり、税務だったり、あるいは会社法だったりと、前提としている状況から離れているどころか、それが適切でないために、いくら対応しようにも対応できないのです。
そもそもの経済行為が適切ではないため、真正面に向かっては会計処理できません。その結果、あれこれといじくり回しているうちに、どんどん複雑な方向に進んでいきます。でも、上手くは収まらない。
そう悩んだ末にボクに質問してきたときにも、「悩むのは当たり前ですよ。前提が違いますから」と返答します。「そもそもの経済行為がおかしいのですから、会計処理できるワケがありません」と。
それを聞いた経理の方は、安心されていきます。また、自信をもって、そもそもの経済行為が違うと社内に主張できます。
なので、もし会計処理がおかしいと思ったら、その前提を疑ってみると良い。悩みの元は、会計処理にはなく、前提にあるかもしれませんよ。