FSFD

初めてのダブル・マテリアリティを報告した海外事例

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

正直、シングル・マテリアリティやダブル・マテリアリティの議論は、開示実務に役立たないと考えていました。しかし、ISSBのS1基準の定義を見たとたん、、、

 

サステナビリティ開示として何を重要なトピックとして選択するかに関して、「シングル・マテリアリティ」や「ダブル・マテリアリティ」という用語が飛び出すことがあります。また、時間の経過によって、ダブルがシングルになるという「ダイナミック・マテリアリティ」という考え方もあります。すると、実務の視点からは、その区分に大きな意味はないと捉えてしまいがちです。

実際、2021年10月1日に開催された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第2回)では、次のような旨の意見が出ていました。

  • あまりシングル、ダブルの定義にとらわれない方がいい
  • 概念の思考作業上は有用だが、二者択一で議論をする段階ではない
  • こうしたマテリアリティの捉え方は本質を見誤る恐れがある

こうした議論を見ていると、シングル、ダブルの区分は概念上のものであって、実務には役に立たないと受け取ってしまっても仕方がありません。そのため、この区分をなんとなく理解している状況もあると推測されます。

 

ところが、ISSBのS1基準を的確に理解するには、2つのマテリアリティの考え方を知っておく必要があります。なぜなら、開示すべき情報の定義が腑に落ちるレベルで理解できないからです。おそらく、マテリアリティの議論を知らなければ、特にひっかかりもなく「そうだよね」と流してしまうでしょう。

その定義を丹念に読み解いていくと、開示すべきサステナビリティ情報について、ダブル・マテリアリティという大枠の中からシングル・マテリアリティに基づき抽出していく様子が描かれています。また、S1基準では適用外の範囲まで明記されています。これが、ダブル・マテリアリティのうち、シングル・マテリアリティでは選定されていない部分です。

 

とはいえ、ここで終わっては、まだまだ概念上の話にとどまります。S1基準が適用されないサステナビリティ開示が何なのかが漠然としています。それについて具体的に知りたいと考えていたときに、ダブル・マテリアリティを初めて適用したことを説明している海外事例に出会いました。

そこで今回の記事では、2つのマテリアリティを整理したうえで、ダブル・マテリアリティを適用した海外企業の開示を紹介していきます。シングル・マテリアリティでは選定されていないトピックを具体的に知ることによって、ISSBのS1基準の理解が進むでしょう。

 

週刊経営財務が認めた、後発事象の論点前のページ

ISSBのS2基準をクリアしている、内部炭素価格の海外事例次のページ

関連記事

  1. FSFD

    2025年1月ISSB会議が注目するGICS使用要件

    ISSBは、IFRS S2基準の修正に向けた議論を本格化させています…

  2. FSFD

    水リスク:日本企業が直面する新たなサステナビリティ課題

    サステナビリティ開示において水リスクの重要性が増しています。しかし、…

  3. FSFD

    電力大手の最新サイバーセキュリティ開示をISSB基準で深掘り

    デジタル化が進む現代社会において、企業にとってサイバーセキュリティは…

  4. FSFD

    サステナビリティ開示基準、英国が示した制度設計の「大人の知恵」

    2025年7月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がSASB…

  5. FSFD

    スコープ3は15カテゴリーで本当に語り尽くせるのか

    「スコープ3は、GHGプロトコルの15カテゴリーを測定しておけば十分…

  6. FSFD

    初めて取り組む場合のサステナビリティ開示の選び方

    初めてサステナビリティ開示に取り組む場合、何を開示するのが適切かにつ…

  1. Accounting

    新刊の見本が届きました!
  2. Accounting

    コラム「もしも、英国の監査委員会が、有報の『監査役監査の状況』を記載したら」を寄…
  3. Accounting

    KAM分析で忘れてはモッタイナイ視点
  4. FSFD

    【制度開示の「孤独」を超えて】『サステナビリティ開示の最前線』が3周年を迎えて思…
  5. FSFD

    ISSB産業別ガイダンスが仕掛ける「選択という名の義務」
PAGE TOP