欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づく開示が本格化する中で、多くの企業が予想していなかった衝撃的な現実に直面することになりました。2024年度における国際保証業務基準(ISAE)3000「過去財務情報の監査又はレビュー以外の保証業務」に準拠した保証業務で、「除外事項付結論」が実際に表明される事例が登場したのです。
これは単なる技術的な問題ではありませんよ。保証人が企業のサステナビリティ開示内容に対して全面的な適正性を認めることができなかったということは、つまり投資家やステークホルダーに向けて「この企業の開示には問題がある」という強烈なシグナルを発信したことを意味するのですからね。
日本においても、2027年3月期からサステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準に基づく開示が開始され、また、2028年3月期以降には保証業務が段階的に義務化される予定です。対応準備が不十分な企業は、欧州の先行事例と同様の厳しい現実に直面する可能性が極めて高いでしょう。まさに「明日は我が身」なのです。
ISAE3000における結論の種類は、今後のサステナビリティ保証基準となる国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」と同様です。そこで本稿では、ISSA500における保証業務の仕組みを詳細に分析したうえで、欧州の具体的実例を検証することで、日本企業が迫りくる課題にどう対応すべきかを明らかにしていきます。
■ISSA5000が定める保証業務の二層構造
ISSA5000は、サステナビリティ保証業務の国際的基準として位置づけられ、また、各国が国内基準を策定する際の重要な参照点となっています。この基準における保証業務は、「合理的保証業務」(Reasonable Assurance Engagement)と「限定的保証業務」(Limited Assurance Engagement)という異なる保証レベルを設定しています。
合理的保証業務では、企業のサステナビリティ開示に誤りが含まれているにもかかわらず、保証人が信頼性を付与してしまうリスクを受け入れ可能な低い水準まで徹底的に引き下げます。そのため、広範囲かつ詳細な保証手続を実施し、また、その結論は「適正である」という積極的な意見で表明されます。
一方、限定的保証業務では、同様のリスクを低減するものの、合理的保証業務よりも高いリスク水準を許容します。より限定的な範囲と量で保証手続を実施するため、その結論は「重大な虚偽表示があると信じるに至る事項は見つかっていない」という消極的な意見で表明されます。
つまり、合理的保証業務とは高い信頼性を与える強い保証であり、また、限定的保証業務は一定の信頼性を与えるものの強度は相対的に低い保証という、信頼性レベルの違いを意味しています。
■除外事項付結論が映し出す信頼性の階層
ISSA5000における保証業務の結論は、「無限定の結論」と「除外事項付結論」に大別されます。除外事項付結論は、さらに「限定的結論」「否定的結論」「結論の不表明」の三つの類型に分類されます。これらを分かりやすく表現すれば、無限定の結論を「◯」とした場合、それぞれ「△」「✕」「?」に相当する信頼性レベルを示しています。
この除外事項付結論の類型決定は、「原因」と「影響度」という二つの軸によって判断されます。原因については、十分かつ適切な証拠が入手できない「範囲の制約」と、サステナビリティ情報が基準に照らして誤っている「虚偽表示」とに区分されます。影響度については、誤りや証拠不足の程度が「重要だが限定的」か「重要かつ広範」かという観点から評価されます。
限定的結論(△)は、範囲の制約または虚偽表示の影響が重要ではあるものの広範囲には及ばない場合に表明されます。たとえば、特定の子会社の環境データについて証拠入手が不十分であったものの、グループ全体の開示の大半は適切に検証できているようなケースです。いわば「ほぼ合格だが、この部分だけは確認できませんでした」という状況でしょう。
否定的結論(✕)は、虚偽表示の影響が「重要かつ広範」と判断される場合に表明されます。たとえば、温室効果ガス排出量の算定方法が基準に著しく反している結果、報告全体が投資家を誤解に導くことになるようなケースが典型例です。これは「根本的に間違っています」という厳しい評価に相当するため、企業にとっては最悪のシナリオと言えるでしょう。
結論の不表明(?)は、範囲の制約が「重要かつ広範」であるため、十分かつ適切な証拠が得られない結果、結論そのものを形成できない場合に表明されます。たとえば、バリューチェーン上の主要サプライヤーデータへのアクセスが広範囲にわたって拒まれ、しかも代替手続も実施不可能なケースです。まさに「評価のしようがありません」という状況ですよ。
これらの区分は、保証人が「どの程度まで情報の信頼性を担保できるのか」を利用者に対して明確に示す重要な指標として機能します。投資家にとっては、開示情報の信頼性を判断するうえで不可欠な情報源となるのです。
購読者限定|この先で扱う内容
欧州企業の実際の保証事例を通じて、スコープ3排出量の算定・開示が保証上の問題につながる過程を検討し、日本企業が開示の信頼性を確保するために何を備えるべきかを考えます。
・欧州企業の保証事例における除外事項付結論の背景
・事業形態によるスコープ3の適用範囲と排出量算定手法
・日本企業に求められるデータ収集・見積り・内部統制の整備







