サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月にサステナビリティ開示基準を公表したことにより、日本企業のサステナビリティ開示は新たな制度導入期を迎えています。今後予定されている適用対象企業の拡大とともに、SSBJ基準への準拠状況が重要な関心事となることは間違いありません。
しかし、制度導入初期の企業行動を「準拠したか、していないか」という二分法だけで捉えることは、当該基準が企業実務へ浸透していく過程を十分に説明できない可能性があります。
SSBJ基準は段階的な適用が予定されているため、企業ごとに制度との接点や対応時期は必ずしも一致しません。また、法的な適用対象ではない企業であっても、自主的にSSBJ基準を参照又は準拠した開示を選択することが考えられます。
そのため、SSBJ基準を認識し、自社への影響を検討し、開示内容や体制を見直しながら、段階的な対応を経て準拠に至る企業も存在すると考えられます。このような移行過程では、企業の実際の対応は「準拠」と「非準拠」の間に連続的な広がりを持ちます。
したがって、制度導入初期の実態を把握するためには、準拠の有無だけではなく、企業が制度をどのように受け止め、どのような対応を開始しているのかという受容過程そのものに着目する必要があります。
そこで本稿では、制度導入初期において企業はSSBJ基準をどのように受容し、その対応はどのような特徴を示すのかという点を検討します。
もっとも、本稿の目的は、企業を類型化すること自体にはありません。各社の記載を比較・分析することを通じて、制度導入初期に企業がどのような段階を経てSSBJ基準に対応しているのかという制度浸透プロセスを明らかにすることにあります。
具体的には、各社の記載から特徴を抽出したうえで、その観察結果を基礎として、制度導入初期の受容過程を整理するための制度浸透モデルを構築します。そのうえで、当該モデルを手がかりに、制度導入初期における企業対応の特徴を考察します。
分析方法
分析対象
本稿では、2026年3月期の上場企業の有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄において、「SSBJ」「SSBJ」(注:全角)又は「サステナビリティ基準委員会」のいずれかに言及した69社を分析対象としました。
分析対象は、有価証券報告書に記載された内容に限られます。したがって、本稿は各社の実際の対応状況を評価するものではなく、有価証券報告書に表れた開示内容を分析対象としています。
分析の手順
本稿では、各社のSSBJ基準への言及内容を比較・分析することにより、その記載の特徴を抽出しました。ここでいう「特徴」とは、企業の成熟度や優劣を評価するものではありません。また、企業の実際の対応状況を判定するものでもなく、有価証券報告書においてSSBJ基準がどのような文脈で位置付けられているかという観点から整理した分析上の区分です。
特徴の抽出に当たっては、「SSBJ基準をどのような文脈で位置付けているか」に着目しました。具体的には、SSBJ基準の公表や制度動向を認識する記載、開示改善の参照先としてSSBJ基準を位置付ける記載、委員会や取締役会等においてSSBJ基準への対応方針や検討状況を示す記載、さらに、算定プロセス、情報収集体制、内部統制、システム、ロードマップ、ギャップ分析又は第三者保証対応など、開示を支える実務基盤の整備に踏み込む記載を区別して整理しています。
次に、抽出した特徴を相互に比較することにより、それぞれの関係性を検討しました。その結果、企業の対応は独立した類型として理解するよりも、制度を認識し、対応を進め、準拠へ至る一連の受容過程として整理できることが示唆されました。
そこで本稿では、この観察結果を基礎として、制度導入初期における企業対応を説明する制度浸透モデルを構築したうえで、そのモデルを用いて2026年3月期に観察された企業対応の特徴を考察します。
分析上の留意点
本稿における特徴及び制度浸透モデルは、企業の成熟度や優劣を評価するものではありません。制度導入初期という共通の時点において、有価証券報告書全体を通じて最も強く表れている記載の特徴に基づき、企業対応の傾向を整理したものです。
また、一部には制度への言及が確認できるものの、制度浸透モデルのいずれの段階にも明確には位置付けられない記載や、企業内部の対応ではなく、市場や顧客との関係において制度への言及が行われている記載も確認されました。本稿では、こうした記載についても制度導入初期の実態を理解するうえで重要な観察結果として取り扱います。
69社にみられたSSBJ基準への対応の特徴
前章で示した方法に基づき、69社の有価証券報告書におけるSSBJ基準への言及内容を分析した結果、企業によるSSBJ基準への対応には七つの特徴が確認されました。





