2026年7月、IFRS S1及びIFRS S2のTransition Implementation Group(TIG:移行支援グループ)において、「Climate-related targets」(気候関連目標)と題するスタッフ・ペーパーが公表されました。
テーマは、IFRS S2で用いられている「target」という用語です。IFRS S2では、この用語の定義が示されていません。そのため、「どこまでがtargetに該当するのか」という実務上の疑問に対して、スタッフが分析結果を示しました。スタッフ・ペーパーを読み始めると、多くの読者は、「target」の意味を整理した解説資料であると受け止めるでしょう。
しかし、分析の過程を丁寧に追っていくと、一つの疑問が生じます。スタッフは、「target」という用語を定義しようとしているにもかかわらず、その一般的な意味や辞書的な定義をほとんど論じていないのです。
代わりに、繰り返し参照しているのは、IFRS S2の開示目的と、それに関連する要求事項です。さらに、「target」と呼ばれているかどうかや、特定の機関で承認されているかどうかではなく、それらの要求事項との関係から適用範囲を検討しています。
もし、このスタッフ・ペーパーの目的が「target」の定義だけであるならば、このような分析方法を採る必要があったのでしょうか。この点に着目すると、このスタッフ・ペーパーは、単に一つの用語の意味を説明した文書ではなく、別のことを示そうとしているようにも見えてきます。
では、スタッフは何を示そうとしていたのでしょうか。本稿では、この分析方法そのものに着目することにより、その背景にある考え方を検討します。
「target」の議論に見えて、そうではない
スタッフ・ペーパーは、「target」の定義を提示することから始まってはいません。その冒頭では、IFRS S2において「target」が定義されていないことを確認したうえで、実務上の疑問を示しています。それは、企業が掲げる計画やコミットメント、目標などのうち、どのようなものがIFRS S2における「target」に該当するのかという点です。
この疑問に対して、多くの読者は、「target」の意味そのものが整理されることを期待するでしょう。
しかし、スタッフ・ペーパーの分析は、その方向には進みません。最初に参照されるのは、「target」という用語の一般的な意味でも、辞書的な定義でもないのです。スタッフは、まずIFRS S2第27項の開示目的を取り上げ、その後、第28項(c)及び第33項の要求事項へと分析を進めます。さらに、「target」と呼ばれているかどうかや、「commitment」「objective」といった名称の違いは判断要素にならないことを示します。また、特定のガバナンス機関による承認の有無についても、それだけではIFRS S2の開示対象となるかどうかは決まらないとします。
その代わりにスタッフが重視しているのは、当該事項が開示目的及び関連する要求事項との関係において、どのように位置付けられるかです。
スタッフ・ペーパーが直接扱っているのは、ある事項が、IFRS S2の開示要求の対象となる「target」に該当するかどうかという問題です。しかし、ここで注目すべきなのは、その判断の結論だけではありません。スタッフが、どのような分析を経てその結論に至っているかという点です。
スタッフは、「target」という用語そのものの意味を明らかにするのではなく、開示目的と関連する要求事項との関係を確認しながら、何が開示対象に含まれるのかを判断しています。さらに、この分析方法は、「target」に関する設例だけに現れるものではありません。スタッフ・ペーパーでは、同様の考え方はIFRS S1にも当てはまることが明示されています。
ここまで見る限り、スタッフ・ペーパーは確かに「target」を分析した文書です。ただし、その特徴は、分析の対象よりも分析の方法にあります。スタッフは、「target」という用語そのものを説明するのではなく、開示目的と関連する要求事項との関係から結論を導いています。
なぜ、このような分析方法が採られているのでしょうか。
この問いに答えるためには、スタッフ・ペーパーだけでは十分ではありません。その背景には、IASBが長年にわたり進めてきた開示に関する議論との関係を検討する必要があります。





