FSFD

ISSB Passportingは「同時準拠」の意味をどう変えるのか――SSBJ基準が確保してきた選択肢を考える

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

 

「同時準拠できる」ことの意味が、変わり始めています。

2026年8月、IFRS財団によるNational Standard-setters Newsletter(仮邦題:各法域の基準設定主体向けニュースレター)は、「ISSB Passporting」を取り上げました。注目したいのは、外国企業がISSB基準そのものを用いて進出先法域の開示要求に対応するという構想が、実務・運用面の検討へと進み始めたことです。

この動きは、日本にとっても他人事ではありません。SSBJ基準はISSB基準との機能的な整合性を確保するとともに、企業がISSB基準にも同時に準拠することを可能にするよう設計されています。これまで、この同時準拠可能性には、主として国際的比較可能性の確保やグローバルな投資家への情報提供という意味がありました。

しかし、Passportingが実装されれば、その意味はさらに広がります。ISSB基準への準拠そのものが海外法域の開示要求を満たす手段となれば、SSBJ基準に従いながらISSB基準にも同時に準拠できることが、日本企業のクロスボーダー・コンプライアンスを効率化する実務上の価値を持つ可能性があるからです。

本稿で考えたいのは、Passportingの進展によって、SSBJ基準がこれまで確保してきたISSB基準への同時準拠可能性が、日本企業にとってどのような新しい意味を持つことになるのかという点です。

 

ISSB Passportingとは、外国企業等が、ISSBが公表した基準そのもの(ISSB Standards as issued by the ISSB)に従って開示を行った場合に、その開示をもって進出先法域のサステナビリティ開示要求を満たすものと規制当局が認める仕組みです。

背景には、ISSB基準の採用・利用を進める法域が増えても、各法域がそれぞれの制度事情に応じた修正を加えれば、複数市場で報告義務を負う企業には法域ごとに異なる要求への対応が残り得るという問題があります。Passportingは、ISSB基準そのものへの準拠を共通項とすることで、こうした規制の分断や重複対応を軽減しようとするものです。

この構想は、2025年秋以降、急速に具体化してきました。2025年10月にはJWGの大幅な拡大とJAWGへの改称が発表され、2026年2月には拡大後のJAWGが初会合を開催しました。そこでは、外国企業等がISSB基準そのものに従って報告することで現地の要求を満たす「規制上のパスポーティング規定」が具体的に議論されました。さらに2026年7月のJAWG会合を踏まえ、8月のニュースレターでは、実務・運用面についてさらに掘り下げて対話するための専用の場を設けることが示されています。

こうした発想自体は、企業報告の世界で全く新しいものではありません。例えば米国では、一定の外国発行体がIASBの公表するIFRS会計基準に従って財務諸表を作成することにより、米国基準とは異なる基準を用いながら米国市場の財務報告要求に対応できる仕組みが既に存在します。ISSB Passportingとは同一の制度ではありませんが、国際基準設定主体が公表した基準をクロスボーダー報告の共通基盤として利用し、現地基準への重複対応を軽減するという点では共通しています。

 

「規制上のパスポーティング規定」は、日本企業にとって何を意味するのでしょうか。日本と海外の双方の市場に上場する企業を例に考えてみます。

不正関連KAMは「ゼロ」から考えるのか――ISA 240と監基報240公開草案を読み比べる前のページ

関連記事

  1. FSFD

    IFRS財団ウェビナーに学ぶ、GHG排出量の測定実務

    気候関連のサステナビリティ開示において、温室効果ガス(GHG)排出量…

  2. FSFD

    16分の1の時間投資でSSBJ基準(案)を理解する

    2024年3月29日、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は3つのサ…

  3. FSFD

    サイバーセキュリティに関するサステナビリティ開示の留意事項

    無知とは怖いものです。その反対に、いったん知ってしまえば、状況がイメ…

  4. FSFD

    TNFD×EFRAG、世界が注目するISSBの連携戦略

    2024年4月23日、ISSBは、今後2年間の作業計画に次の研究プロ…

  5. FSFD

    英国の監査委員会はサステナビリティにどう言及したか

    ISSB基準に基づくサステナビリティ開示は、企業が作成者となります。…

  6. FSFD

    有価証券報告書に二つの制度が同居している——人的資本開示の構造的矛盾

    おそらく多くの企業が、いまこう理解しているのではないでしょうか。「S…

  1. FSFD

    なぜ、サステナビリティ開示を財務報告で行うのか
  2. FSFD

    SSBJ基準「要件ジャングル」からの脱出法を完全公開したセミナー
  3. FSFD

    財務諸表の気候リスクの透明化を図る、IASB会計基準の新設例
  4. FSFD

    気候変動の影響を考慮する会計実務に何が起きているか
  5. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.041 第一生命ホールディングス、あずさ
PAGE TOP