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投資家は移行計画の何を見ているのか――ISSB/SSBJ開示を「判断できる情報」に変える

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

 

「投資家は、本当にこの情報を使っているのだろうか」

この問いは、ISSB基準やSSBJ基準に基づくサステナビリティ関連財務情報の開示を準備する企業にとって、無視しにくいのではないでしょうか。

移行計画について目標や施策、資源配分、進捗、前提となる政策・技術・市場環境などを開示しても、それらが投資家のどのような判断に使われているのかは、企業側から必ずしも見えるわけではありません。

2026年8月、International Transition Planning Network(ITPN、国際移行計画ネットワーク)はウェビナーを開催しましました。5月に公表した報告書『Enhancing Long-Term Value and Resilience: A study of how global investors are using transition plans(仮邦題「長期的価値とレジリエンスの向上:グローバル投資家による移行計画の活用に関する調査」)』を踏まえたウェビナーです。

  • Watch the webinar – From Plans to Decisions: How investors are using transition plans to drive long-term value (仮邦題「ウェビナーを視聴する ―― 計画から意思決定へ:投資家は移行計画を長期的価値の創出にどのように活用しているか」)

この調査を担当したクロノス・サステナビリティ社CEOのロリー・サリバン博士は、この問題を率直に指摘しました。

“At the same time, companies are deeply skeptical about whether investors are interested in the information they provide or whether they use it.”
(仮訳:企業は、自分たちが提供する情報に投資家が関心を持っているのか、あるいは、その情報を実際に利用しているのかについて、強い懐疑を抱いています。)

 

サリバン博士によれば、企業が規制や各種フレームワークへの対応に大きな労力を費やす一方、投資家からは、その情報を投資判断や企業との対話にどう使っているのかが十分に語られていないといいます。企業と投資家の間に、情報の利用をめぐるコミュニケーション・ギャップが生じているのです。

これは、ISSB基準やSSBJ基準に基づく開示を本格化させる日本企業にとっても重要な問題です。ITPNの調査を見ても、「投資家は使っているのか」という問いに、一律の答えを出すことはできません。

では、投資家が移行計画をどう使うかが完全には見えない中で、日本企業は何を、どう開示すればよいのでしょうか。本稿では、ITPNのウェビナーを中心に、その基礎となった調査報告書も参照しながら、この問いを考えます。

 

ITPNの調査では、35の機関投資家のうち29が、移行計画を投資またはスチュワードシップのプロセスで利用していました。一見すると、「投資家は使っている」と言えそうな結果です。

ただし、その「使う」の中身は一様ではありません。75%超がスチュワードシップに、45%がポートフォリオのモニタリングやリスク管理に利用しています。これに対し、ファンダメンタル分析で利用している投資家は約3分の1で、パッシブ運用での利用はさらに限定的でした。企業との対話に使うことも、リスク管理に使うことも、企業価値分析の一要素として参照することも、すべて「使っている」に含まれます。

利用自体もまだ発展途上です。サリバン博士は、移行計画を投資意思決定や投資パフォーマンスの向上に活用する取組みについて、まだ “in the foothills”、すなわち本格的な活用に向かう「山の麓」にいる段階だと表現しています。報告書も、利用状況を “exploratory, uneven, and only partially embedded”(探索的で、活用にはばらつきがあり、投資プロセスへの組み込みも部分的にとどまる)と整理しています。

加えて、調査対象には気候リスク管理に積極的な投資家が多いことから、市場全体より活用が進んでいる可能性があります。「35社中29社」は市場全体の利用率というより、先行する投資家の間で移行計画が使われ始めていることを示す結果と捉えるべきでしょう。こうした調査の性格を踏まえれば、企業が「本当に使われているのか」と疑問を持つことにも、相応の理由があります。

利用方法が一様ではないとすれば、企業は誰の、どの使い方を想定して開示すればよいのでしょうか。この問いに答えるには、「使われているか」から一歩進み、投資家は移行計画を使って、企業の何を判断しようとしているのかを見る必要があります。

 

サリバン博士はウェビナーで、「なぜ投資家が移行計画に関心を持つのか」という問いを置いています。その答えは、企業がどれだけ温室効果ガスを削減するのかを知るため、というだけではありません。

投資家の根底にある関心は、気候が変化し、経済が低炭素へ移行する中で、その企業が事業と財務の両面でレジリエンスを維持できるのかという点にあります。サリバン博士はこれを、短期、中期、長期にわたるbusiness resilience(事業のレジリエンス)とfinancial success(財務的な成功)への関心と説明しています。報告書も同様に、移行計画を、企業が低排出経済への移行の中で長期的なfinancial viability(財務的な存続可能性)をどのように確保しようとしているのかを評価するための情報と位置付けています。

この視点に立てば、移行計画は単なる「脱炭素の工程表」ではありません。排出削減目標だけでなく、その目標と事業戦略がどう結びつき、低炭素移行の中でもビジネスモデルを維持できるのかを考えるための将来志向の情報でもあります。

そうだとすれば、投資家は移行計画を評価するとき、何に注目しているのでしょうか。

 

ウェビナーの質疑で、企業の移行計画の野心度が低い場合、それが投資リスクとしてどう評価されるのかという質問が出ました。サリバン博士が「印象的だった」と振り返ったのは、企業自身が設定した目標の野心度を評価する投資家が意外に少なく、むしろ「その目標を達成する戦略があるか」「その戦略は実行可能か」を見ている投資家が相当数いたことでした。

ここから分かるのは、目標の野心度(ambition)と計画の信頼性(credibility)は別の評価だということです。高い目標を掲げても、その達成手段が技術的、経済的に実行できなければ、計画の実現可能性には疑問が残ります。

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