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英国は気候開示をやめたのか――「義務化見送り」が語らないこと

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「英国が、上場企業に対する気候関連開示の義務化を見送った」

2026年9月30日、英国の金融行為規制機構(FCA)が公表した最終規則は、そんなニュースとして伝えられました。英国版ISSB基準であるUK SRSへの完全準拠を一律に義務付けず、「Comply or Explain(遵守か説明か)」方式を採用したのです。

日本では、SSBJ基準に基づく開示の義務化が段階的に始まります。それだけに、英国の判断は気になるところです。理由さえ説明すれば、英国の上場企業は気候関連情報を開示しなくてもよくなったのでしょうか。

このニュースを理解するうえで見落とせないのは、英国の上場企業には以前からFCAによる気候関連開示の規則が適用されていただけでなく、それとは別に、気候関連情報の開示を義務付ける法令も存在するという事実です。

もっとも、だからといって今回の制度変更を単なる現状維持と捉えることもできません。UK SRSへの完全準拠を義務付けないことで、企業が開示しない情報も生じ得るからです。何が緩和され、何が残り、投資家が得られる情報はどう変わるのか。今回の判断は、これらを分けて考える必要があります。

 

英国では、2021年1月1日以後に開始する事業年度から、旧プレミアム上場企業に対して、TCFD提言に整合した気候関連開示を求める規則が適用されました。その後、対象となる上場企業の範囲も拡大されています。

ただし、TCFD提言への完全な準拠を一律に義務付けたわけではありません。整合した開示を行わない場合には、その理由などを説明する仕組みでした。従来からComply or Explain方式が採用されていたのです。

2026年1月、FCAは、このTCFD関連規則をUK SRSに基づく新たな規則へ置き換える案を公表しました。その際、気候関連のUK SRS S2については、スコープ3排出量を除き、原則として準拠を義務付ける方針を示しました。一方、スコープ3排出量と気候以外のサステナビリティ関連情報については、Comply or Explainを認める構想でした。

2026年9月30日に公表された最終規則PS26/19では、この方針が変更されました。UK SRS S1・S2の全体についてComply or Explainを採用したのです。

  • PS26/19: Aligning listed issuers’ sustainability disclosures with international standards(仮邦題「PS26/19:上場発行体のサステナビリティ開示と国際基準との整合性確保」)

https://www.fca.org.uk/publications/policy-statements/ps26-19-aligning-listed-issuers-sustainability-disclosures-international-standards

1月の提案と比較すれば、規制緩和です。しかし、従来のTCFD関連規則と比較すると、Comply or Explainという基本的な方式は維持されたことになります。

とはいえ、新制度は単なる現状維持でもありません。従来のTCFD関連上場規則をUK SRSに基づく規則へ置き換えるとともに、気候以外のサステナビリティ関連情報にも対象を広げます。2027年1月1日以後に開始する事業年度から適用され、スコープ3排出量には1年間、気候以外のサステナビリティ関連開示には2年間の経過措置が設けられています。

また、Comply or Explainの下では、UK SRS S2が求める情報を開示しないことも認められます。その場合、企業は満たしていない開示要求の概要、開示しない理由、将来の開示に向けた対応措置などを説明する必要があります。

FCAは、UK SRSに基づく新たな開示規則を導入する一方、その要求事項への完全準拠については企業に柔軟性を認めました。「義務化見送り」が意味するのは、この一律の完全準拠という要求を見送ったことです。英国の気候関連開示制度全体を撤廃したわけではありません。

 

ある英国の大規模上場企業が、UK SRS S2の一部についてExplainを選択したとします。その企業に適用される気候関連開示義務は、どこまで変わるのでしょうか。

英国には、FCAの上場規則とは別に、Companies Act 2006(英国会社法)に基づく気候関連財務情報開示(CFD)があります。この制度では、一定の要件を満たす企業に対して、気候関連リスク・機会に関するガバナンス、リスク管理、事業戦略への影響、シナリオ分析、指標・目標などの情報を開示する法的義務が課されています。

CFDは、FCAの新規則と同じComply or Explain方式ではありません。法令上、一定の開示を省略できる場合はあるものの、UK SRSについてExplainを選択したというだけで、会社法上の開示義務まで免除されるわけではないのです。

他にも、英国で設立された一定の上場企業には、SECR(Streamlined Energy and Carbon Reporting)に基づき、温室効果ガス排出量やエネルギー使用量などを報告する義務があります。また、開示・透明性規則(DTR)では、適用対象となる発行体に主要なリスク及び不確実性の説明を求めています。そのため、気候関連リスクが主要なリスクに該当する場合には、UK SRSについてExplainを選択しても、DTRに基づく説明が必要です。

これらの制度は、それぞれ適用対象も要求事項も異なります。UK SRS S2でExplainを選択した情報が、別の制度でも必ず開示対象となるわけではありません。UK SRSについてExplainを選択しても、他の法令に基づく開示義務は残ります。

 

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