ISSBのS2基準で開示が要求されている事項のひとつに、「内部炭素価格」があります。経理や財務の分野では聞き慣れない言葉ではないでしょうか。
頭に「内部」という文字が付いていることから、「外部」もあることがわかります。これらを除けば、「カーボンプライシング」(炭素価格)という言葉となります。そのため、内部炭素価格の前に、カーボンプライシングを理解しておくことが良いでしょう。
環境省のウェブサイトによれば、カーボンプライシングとは「炭素に価格を付け、排出者の行動を変容させる政策手法」であると説明されています。つまり、温室効果ガスの影響を財務的な観点から定量化することを通じて、気候変動の対応を図っていく手法を指します。
このうち外部から規制される価格には、炭素税や排出量取引制度などが挙げられます。これに対して、企業が内部管理の目的から、排出する温室効果ガスに値段をつけることを「内部炭素価格」(Internal carbon pricing:ICP)と言います。
この内部炭素価格の開示についてISSBのS2基準が要求していることから、SSBJによって開発される日本版のサステナビリティ開示基準にも同様に取り込まれるものと見込まれます。
とはいえ、2022年6月期から2023年6月期までに提出された有価証券報告書において「内部炭素価格」「インターナルカーボンプライシング」「ICP」という言葉を記載した上場企業は、71社です。母集団を4,000社とした場合には、1.8%に過ぎません。まだまだ財務報告の開示には至っていないことがわかります。
そこで今回の記事では、「内部炭素価格」について、内容を整理したうえで、年次報告書で開示した海外企業の事例を紹介していきます。また、その詳細が関連する書類を参照していたため、そこでの開示も合わせて説明します。「内部炭素価格」についてイメージを持ちたいときには、次のサブスクリプションからログインしてください。