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サステナビリティ開示は、「何を書くか」だけでは設計できない ―金融庁レビューと有価証券報告書の分析から考えた「投資家が判断できる説明」―

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

 

有価証券報告書のサステナビリティ開示を見直す際には、基準の要求事項と照合して不足情報を確認し、先行企業の開示も参照しながら、必要な記載を追加するのが一般的です。新たな制度や要求事項への対応が続く中、この進め方自体は欠かせません。

しかし、開示の見直しを進めるうちに、多くの担当者が、別の難しさに直面します。

情報を追加し、説明も以前より詳しくした。それでも、「これで十分だ」と言い切れないことがあります。「もう少し具体的に」と指摘され、さらに情報を加えても、本当に改善されたのか確信を持てない。他社事例を参考にしようとしても、その情報が自社にも必要なのか、投資家のどの判断に役立つのかを決められないことがあります。

これは、担当者の知識や努力の問題というより、開示改善を「不足情報の追加」として捉える方法そのものに関係しています。

問題は、「どの情報を追加するか」を考える前に、現在の開示について、利用者がどこで判断できなくなっているのかを特定する機会が少ないことです。本稿では、この視点から、有価証券報告書のサステナビリティ関連財務開示を考えます。

 

情報の追加が開示改善の中心になりやすい背景には、詳細な開示が好事例として紹介されることも関係しています。実際、私自身も企業の開示や他社事例を読む中で、「ここまで詳しく書く必要があるのか」と感じるほど丁寧な説明に触れることがあります。

もちろん、複雑な事業構造、重要な前提や不確実性、経営上の判断を説明した結果として、開示が長くなることはあります。問題は長文であることではなく、情報量が開示の質を示すものとして受け止められやすいことです。

他社事例を参考に情報を追加すれば、開示項目や文章量は増えます。しかし、それによって投資家が新たに何を判断できるようになったのかは、情報量だけでは分かりません。確認すべきなのは、追加した情報の量ではなく、その情報が投資家のどの判断を可能にするのかという点です。

私たちは「何を追加するか」を検討することには慣れています。一方、その情報が投資家の判断にどのような役割を果たすのかを、開示全体の中で確認する機会は、必ずしも多くありません。

金融庁が令和7年度の有価証券報告書レビューで示した審査の視点も、この考え方と軌を一にしています。重点テーマ審査では、「規定等に基づく形式的な記載の有無」にとどまらず、「有価証券報告書の利用者に十分な情報が開示されているか」という観点から審査が行われました。

この審査視点は、開示の質を情報量ではなく、利用者が判断できるかという観点から捉える必要があることを示しています。

では、有価証券報告書の利用者は誰であり、その利用者は何を判断するために情報を必要としているのでしょうか。必要な情報を選ぶには、まずこの点を明確にする必要があります。

 

ここで、一度、サステナビリティ開示から少し離れて考えてみたいと思います。

同じテーマを扱う場合でも、読者が変われば、必要な情報は変わります。例えば、新入社員向けの研修資料では背景や基本事項を丁寧に説明しますが、経営会議の資料では、意思決定に必要な論点、選択肢及び判断材料が中心になります。読者が違えば、必要な情報と説明の順序も変わります。

私も単著を執筆する際には、まず想定読者と、読後に必要となる理解や実務を定めます。それによって、取り上げる論点、説明の深さ、具体例及び章立てが変わるからです。

この原則を有価証券報告書に当てはめるなら、まず、その主な利用者と利用目的を確認しなければなりません。そこで次に、有価証券報告書で求められる「サステナビリティ関連財務情報」が、一般的なサステナビリティ情報とどのように異なるのかを考えます。

 

有価証券報告書は、企業活動を幅広く紹介する広報資料や、さまざまなステークホルダーを対象とするサステナビリティレポートとは目的が異なります。主な利用者は投資家等であり、企業への資源配分に関する意思決定に有用な情報を提供する媒体です。

企業には、環境、社会、人材、地域社会その他に関する幅広い情報があります。いずれも重要ですが、そのすべてを有価証券報告書で同じように説明する必要があるわけではありません。

有価証券報告書で求められるのは、サステナビリティに関する情報を網羅的に紹介することではありません。サステナビリティ関連のリスク及び機会が企業の見通し、財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに及ぼす影響を、投資家が判断するための情報です。

つまり、同じ情報であっても、有価証券報告書では「紹介」ではなく、「判断材料」として位置付けられます。ここに、「サステナビリティ情報」と「サステナビリティ関連財務情報」の違いがあります。

例えば、温室効果ガス排出量の削減目標を開示するとします。サステナビリティ情報として考えれば、「どのような目標を掲げているか」を説明することが中心になるかもしれません。

一方、有価証券報告書では、目標の内容に加えて、その目標と戦略との関係、必要となる経営資源、未達の場合に企業の見通しへ及ぼす影響、主要な不確実性及び経営の対応までが、投資家の判断材料になります。

ここで重要なのは、目標という情報を追加することではありません。その情報が、企業の将来を判断するために、どのような意味を持つのかを説明することです。

有価証券報告書のサステナビリティ関連財務開示を改善する際には、「まだ書いていない情報は何か」だけでなく、「投資家は、この開示から企業の何を判断しようとしているのか」を問う必要があります。その判断に必要な情報を選び、その意味が伝わる形に組み立てる。次章では、この考え方を「説明設計」として整理します。

 

前章では、有価証券報告書で求められるのは、サステナビリティ情報そのものではなく、投資家が企業への資源配分に関する意思決定を行うために必要なサステナビリティ関連財務情報であることを書きました。では、そのような開示は、どのように作ればよいのでしょうか。

ここで重要になるのが、「説明設計」という考え方です。説明設計というと、「分かりやすい文章を書くこと」や「構成を工夫すること」を思い浮かべるかもしれません。

ここでいう説明設計は、単なる文章表現の工夫ではありません。投資家が判断するために必要な情報を選び、それぞれに役割を与え、その判断が自然につながるよう一連の説明として構成することです。

投資家は、個々の情報を独立して評価するのではなく、それらの関係をたどりながら、企業の見通しへの影響を判断します。したがって企業には、各情報がどの判断に必要であり、前後の情報とどうつながるのかを明確にすることが求められます。

 

説明設計の考え方を理解することと、自社の有価証券報告書へ適用できることは別の問題です。

第一の難しさは、自社開示のどこで投資家の判断が止まるのかを客観的に特定することです。自社の事業や戦略を熟知しているほど、開示に書かれていない前提まで補って読んでしまい、「説明したこと」と「利用者が判断できること」の差を捉えにくくなります。

第二の難しさは、必要な情報を見極めることです。「書かれていない情報」と「投資家の判断に不足する情報」は一致しません。新しい情報ではなく、既存情報の関係を明確にすることが必要な場合もあれば、追加を検討している情報が投資家の判断には不要な場合もあります。

第三の難しさは、他社事例を自社へ読み替えることです。他社開示には、その企業固有の事業構造、戦略、ガバナンス及び経営判断が反映されています。その文章を移すのではなく、なぜその説明が投資家の判断に必要なのかを理解し、自社の制度と運用実態に置き換える必要があります。

第四の難しさは、個別に整理した情報を一連の説明へ構成することです。有価証券報告書はガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標などの項目に分かれますが、投資家の判断は項目ごとに完結しません。各情報の役割と順序を設計し、企業の見通しまでたどれる構造にする必要があります。

これら四つの難しさを個別に解くのではなく、一貫した手順として繰り返し適用できる形にする必要があります。説明設計を実務で機能させるには、その思想を再現可能なプロセスへ変換しなければなりません。

 

マテリアリティ評価、移行計画、内部炭素価格、気候関連役員報酬は、それぞれ異なる開示テーマです。しかし、欧州企業の事例や金融庁レビューを検討すると、いずれも、投資家が何を判断し、その判断にどの情報を必要とするかという共通の構造で捉えることができます。

そこで、この共通構造を、自社開示の改善に繰り返し適用できる四つのStepとして体系化しました。

Step 1. 開示を診断する
Step 2. 投資家の判断に必要な情報を見つける
Step 3. 欧州事例から、自社が説明すべき内容へ読み替える
Step 4. 投資家が判断できる説明を設計する

診断した問題を、必要な情報の確認、自社への読み替え、説明上の役割と順序の設計へ一貫してつなげます。

セミナーでは、この共通プロセスを、マテリアリティ評価、移行計画、内部炭素価格及び気候関連役員報酬の四つのテーマで段階的に実践します。目的は、各テーマの模範解答を覚えることではなく、テーマが変わっても、自社開示の問題を特定し、必要な説明を設計できるようになることです。

SSBJ基準の強制適用対象は段階的に拡大されます。一方、有価証券報告書のサステナビリティ関連財務開示を、投資家が企業の見通しを判断できる説明にするという課題は、SSBJ基準の強制適用企業だけのものではありません。

本セミナーでは、個別の要求事項を埋める方法ではなく、投資家の判断を起点として、必要なサステナビリティ関連財務情報を選び、その意味が伝わる一連の説明へ構成するプロセスを、四つのテーマを通じて段階的に実践します。

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