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サステナビリティ保証の時代、企業が問われるのは「文章力」ではない――ISSA 5000 FAQが突きつける開示判断の説明可能性

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

 

SSBJ基準に基づくサステナビリティ関連財務開示について、保証制度の導入が議論されています。保証業務実施者が依拠する基準として、ISSA 5000と整合する保証基準の開発も進められています。ISSA 5000とは、国際サステナビリティ保証基準5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」を指します。この基準は、サステナビリティ情報に対する保証業務を実施する者のための基準です。

2026年6月、国際監査・保証基準審議会(IAASB)のスタッフはISSA 5000のFAQを公表しました。

  • 「SUSTAINABILITY ASSURANCE Frequently Asked Questions: The Application of Materiality under ISSA 5000」(仮邦題「サステナビリティ保証 ISSA 5000における重要性の適用:よくある質問」)

https://www.iaasb.org/publications/issa-5000-frequently-asked-questions-application-materiality?utm_source=Main+List+New&utm_campaign=0d5978873e-EMAIL_CAMPAIGN_2026_06_24_06_58&utm_medium=email&utm_term=0_-0d5978873e-460466368

このFAQは、保証業務実施者だけが読むべき文書ではありません。むしろ、サステナビリティ情報を作成する日本企業にとって、重要な示唆を含んでいます。

なぜなら、保証業務実施者が何を見ようとしているのかを知らなければ、企業は保証に耐え得るサステナビリティ情報を作成できないからです。開示の作成者が考えるべきことは、単に「どの項目を開示するか」にとどまらない。その開示に至った判断が、適用される規準に照らして説明できる状態になっているかどうかです。

本稿では、ISSA 5000 FAQを企業側から読み解くことで、サステナビリティ開示の保証が本格化する時代に日本企業が整えるべき備えを明らかにします。

 

これまでのサステナビリティ保証では、温室効果ガス排出量、エネルギー使用量、水使用量、労働災害率といったパフォーマンス指標が対象の中心でした。そのため、企業側の保証対応も、数値の集計、算定方法、証憑、内部統制の整備に意識が向く傾向が見られました。

もちろん、それらは引き続き重要です。しかし、ISSA 5000型の保証を前提にすると、保証の関心は数値だけにとどまりません。保証業務の範囲に含まれる限り、方針、戦略、リスクと機会、ガバナンス、目標、進捗説明、取組内容といった定性的な開示情報についても、重要な虚偽表示がないかという観点から検討されます。

ここで問われるのは、文章のうまさではありません。説明が丁寧であることでも、取り組み姿勢が前向きであることでもありません。保証業務実施者が見ようとしているのは、その文章に至った企業の判断そのものです。

なぜ、その事項を重要と判断したのか。どの範囲を対象にしたのか。どの情報を根拠にしたのか。どの制約を認識しているのか。どの事項を除外したのか。関連する定量的な開示情報と整合しているのか。適用される規準に照らして、その記述は想定利用者の意思決定を誤らせないものか。ISSA 5000 FAQを企業側から読む意味は、まさにここにあるのです。

企業がこれまで定量的な開示情報を中心に保証対応を整えてきたのは、自然な対応でした。従来の保証実務がそこに焦点を当てていた以上、企業がそこに力を注いだのは当然です。問題は、定性的な開示情報に対して保証業務実施者が何を見ようとするのか、その考え方がこれまで十分に示されてこなかったことにあります。ISSA 5000 FAQは、その空白を埋める最初の手がかりです。

 

保証業務実施者が確認するのは、文章そのものだけではありません。その文章が、適用される規準に照らして適切に作成されているかを評価するために、背後にある企業の判断を理解しようとします。

例えば、企業が「気候変動は当社にとって重要なリスクである」と開示した場合、保証業務実施者が関心を寄せるのは、その表現の巧拙ではありません。問題となるのは、企業がなぜその事項を重要と判断したのか、どのようなプロセスを経て重要性を評価したのか、どの範囲の事業を対象とし、どの情報を根拠としたのかです。また、他に検討すべき事項がなかったのかも問われます。保証業務実施者は、これらの問いを通じて企業の判断過程を追跡することにより、その判断が適用される規準に照らして妥当であるかを評価します。

ここで、本稿独自の分析概念として「判断の説明可能性」を導入します。これは、企業が行った開示判断について、その結論だけではなく、判断基準、対象範囲、根拠となる情報及び適用される規準との関係を、保証業務実施者をはじめとする第三者が理解できるとともに、判断に至る過程を追跡できる状態をいいます。ISSA 5000で用いられている用語ではなく、FAQを企業側から読み解くための概念装置です。

注意すべきは、この概念が企業の判断を正当化するためのものではないという点です。企業が行うマテリアリティ評価と、保証業務実施者による重要性の検討又は決定は、目的が異なります。保証業務実施者が企業の判断をそのまま受け入れるわけではありません。しかし、企業の判断が適切に整理され、かつ、その判断過程について説明可能な状態が整っているほど、保証業務実施者は企業のマテリアリティ・プロセスを理解しやすくなるため、重要な虚偽表示リスクをより適切に評価できます。

したがって、保証の時代に企業が準備すべきものは、開示に至った判断を適用される規準との関係を含めて説明できる状態を整えることです。

購読者限定|この先で扱う内容
定性的な開示情報を支える企業の判断が、保証においてどのように評価されるのかをISSA 5000 FAQの具体例から読み解き、日本企業が優先的に整えるべき開示判断と組織的な対応を検討します。
・定性的な開示情報で説明可能性が特に問われる理由と、企業・保証業務実施者の判断の関係
・ISSA 5000 FAQのExampleに見る、複数の虚偽表示に対する保証業務実施者の評価
・日本企業が優先的に備えるべき開示判断と、説明可能性を支える社内体制

 

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