2026年9月に公表されたTNFDの「Status Report 2026」は、自然関連開示の広がりを示しています。
AIを用いた分析では、TNFDの14の推奨開示の少なくとも一つに沿った開示を行う組織は1,000を超えました。これは、前年の水準から約2倍に増えたことを意味します。分析対象1,154組織のうち、日本の組織は24%を占めており、その割合は国・地域別で最も高くなっています。
こうした結果から、日本企業はTNFDに沿った開示において、世界的に大きな存在感を示していることが分かります。しかし、企業がTNFDに対応することと、その成果が投資家向けの開示に現れることは、必ずしも同じではありません。
では、世界的にTNFD対応で存在感を示す日本企業は、その自然関連情報を、投資家向けの法定開示である有価証券報告書(以下「有報」といいます)にどこまで落とし込めているのでしょうか。
この問いは、「Status Report 2026」の問題意識とも重なります。同報告書は、TNFD Adopterへの登録数だけでなく、Adopterであるか否かにかかわらず、実際の開示実務(actual reporting practice)を追跡することを調査目的の一つとしています。また、基準に基づく年次報告の主要な利用者である投資家の情報ニーズにも焦点を当てています。
本稿では、日本企業のTNFD対応そのものではなく、自然関連情報が有報にどのような形で現れているかに焦点を当てます。170社の有報を読み比べると、その実装の仕方にはかなり大きな違いがありました。
170社をどう調べたか
分析対象は、日本の上場企業が提出した2026年3月期の有報です。「サステナビリティに関する考え方及び取組」において、「TNFD」「TNFD」「自然関連」のいずれかのテキストデータを含む企業を抽出しました。この条件に該当したのが170社です。
ただし、この170社を「TNFD対応企業170社」と捉えることはできません。今回の抽出基準は、有報に特定の検索語が含まれているかどうかであるため、企業のTNFD対応の有無そのものを判定したものではないからです。検索に該当した企業には、TNFDへの賛同などの言及にとどまる企業も含まれます。反対に、これらの検索語を用いずに自然資本や生物多様性について開示している企業は、対象から外れている可能性があります。
そのため、本調査から日本の上場企業全体におけるTNFD対応率を推計することはできません。分析の対象としたのは、有報でTNFDや自然関連に何らかの言及がある170社において、その先にどのような情報が開示されているかです。
そのうえで、170社の記載を横断的に比較することにより、自然への依存・影響の把握から、リスク・機会、対応・管理、経営・財務への接続まで、有報上の自然関連情報の展開を整理しました。
なお、「Status Report 2026」も、その分析結果を市場全体の自然関連開示の正確な測定値ではなく、発展途上にある市場実務を示すものとして位置付けています。本稿も同様に、普及率を測るのではなく、有報に現れた自然関連開示の現在地を捉える分析です。
「TNFDと書いたか」では見えない――6つの実装段階
170社の記載を比較すると、「TNFD」という言葉の有無だけでは、自然関連情報が有報にどこまで組み込まれているかは捉えきれません。
そこで、各社の有報に最も強く現れている特徴を分類の基準とし、「有価証券報告書への自然関連情報の実装段階」として6つに整理しました。これは企業のTNFD対応そのものの成熟度を評価するものではなく、有報上の開示の特徴を分類したものです。
| 段階 | 有報に現れた特徴 | 社数 | 構成比 |
| 0 | 周辺言及 | 6 | 3.5% |
| 1 | 認識・対応着手 | 71 | 41.8% |
| 2 | 依存・影響の可視化 | 14 | 8.2% |
| 3 | リスク・機会への変換 | 1 | 0.6% |
| 4 | 対応・管理への接続 | 38 | 22.4% |
| 5 | 経営・財務への統合 | 40 | 23.5% |
| 合計 | 170 | 100.0% |
段階0は、自然関連への言及はあるものの、自然資本に関する具体的な分析までは確認できないものです。段階1では、TNFDへの賛同、LEAP分析への着手、方針の策定など、対応を進めていることが分かります。
段階2になると、依存・影響、優先地域、優先セクターなど、分析結果が具体的に現れます。段階3では、依存・影響の分析結果が自然関連リスク・機会として具体化されます。
段階4では、そこで特定されたリスク・機会が、対応策、リスク管理、指標・目標などへつながります。段階5は、さらに事業戦略、投融資、売上、コスト、資産など、経営・財務の文脈までつながっているものです。
分布で最も多かったのは段階1の71社、41.8%でした。その一方で、段階4と5も合わせて78社、45.9%を占めます。これに対し、段階2と3は合わせて15社、8.8%にとどまりました。
このように、自然関連開示は、認識から依存・影響の把握、リスク・機会の特定、対応、経営・財務への接続へと、各段階に均等に分布していたわけではないのです。
購読者限定|この先で扱う内容
170社の開示に見られた特徴を企業事例から検証し、自然関連情報を投資家の判断に役立つ形で有報に組み込むための考え方を整理します。
・実装段階の分布に見られる特徴と、企業事例から読み取れる違い
・TNFD対応の成果を有報と外部媒体にどう配置するか
・自然関連情報と経営・財務との接続、および自社の開示を点検する視点





